研究課題/領域番号 |
19K05505
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
三宅 弘之 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (00271198)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超分子 / 金属錯体 / らせん / キラル / 構造変換 / 質量分析 / 分子認識 |
研究実績の概要 |
研究代表者らが独自に開発した置換活性ならせん型金属錯体における瞬時なヘリシティーの反転現象が、生体系に見られるような、複数の弱い相互作用により制御されることに着目して、さらに多彩な弱い相互作用によりヘリシティーをコントロールできる超分子らせん構造体の構築と反転制御、および超分子集積化による応答性の向上や外部刺激の組み合わせを検知する特異性の附与と記憶化を目指すものである。 本年度は、研究を推進する過程において、(S)-アラニン誘導体四座配位子からなる単核銅(II)錯体を合成し、その構造をX線結晶構造解析やDFT計算により明らかにし、ラムダ cis-アルファ構造を取ると結論づけることができた。この錯体は更に無保護アミノ酸のキレート配位により三成分集合体の形成が可能で、さらに、四座配位子とアミノ酸との弱い相互作用により、アミノ酸のエナンチオ選択的な配位を実現した。DFT計算により立体選択的なアミノ酸の配位はR体の方が安定であることも明らかにした。さらに、エレクトロスプレーイオン化質量分析法を用いて三元錯体イオンを観測することで、アミノ酸のエナンチオ過剰率を求めることができることも明らかにした。一方、フェニルアラニン誘導体配位子を新たに合成し、そのキラルコバルト(II)錯体を調製したところ、高いジアステレオ選択性で単核錯体へと誘導できることを明らかにした。しかし、フェニルアラニン末端の違いにより選択性が大きく異なることも明らかとなった。今後、溶媒依存性やアニオン依存性など特異な性質を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キラル金属錯体を合成し、その構造や性質を明らかにできている。また、新規配位子の合成も進んでおり、概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに研究代表者らが得た精密に制御されたキラル金属錯体の構造スイッチングに関する成果に基づき、本研究では、芳香環を持つアミノ酸として特にフェニルアラニンを取り上げ、錯体形成時に分子内で生じる弱い相互作用を活用したヘリシティー制御について検討を行う。 本年度までに、(1)フェニルアラニン誘導体配位子を用いた単核キラル金属錯体を新たに合成することができた。今後はこの合成したキラル単核錯体を用いて、弱い相互作用のONーOFFによる完璧なキラリティー変換とキラリティー伝達に焦点を絞る。分子内外の相互作用の破壊と再構築による錯体ヘリシティーの反転制御について、円偏光二色性スペクトル(ECD)やNMR、X-線結晶構造解析、振動円偏光二色性(VCD)を活用して詳細に検討する。続いて、Gaussianを用いた計算機実験とあわせて、各錯体の構造とそれらを制御する弱い相互作用の働きを明らかにすることで、次世代キラル分子素子の開発に関する知見を得る。 続いて、(2)集積型キラル錯体を合成し、弱い相互作用のON-OFFによるヘリシティー反転と記憶化を図る。らせん構造を形成する配位子末端に配位可能な官能基を縮合し、らせん錯体の集積化を図る。ナノレベルでのらせん空孔の創出と分子運動を実現し、キラルユニットとなる錯体のヘリシティー反転や伸縮挙動、さらには金属中心の酸化数のコントロールや固-液平衡のコントロールによる記憶化をON-OFFして集積錯体の全構造の変換を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は概ね順調に進行しているが、予定していた研究に使用するキラル配位子の系統的な合成に関して、合成・精製条件の検索に当初予想より時間を要したので残額が生じた。次年度に主として原料試薬や測定用セルの購入代金として使用する予定である。
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