本研究では微小球状イオン交換樹脂「ナノイオンキャリア」のもつ分子構造や担持材料の柔軟性に着目し、遷移金属化合物と複合化した新規発光システムの構築を目指している。当該年度は、前年度に開発したキャリア中において量子収率0.8を超える強い蛍光を発する化合物を蛍光色素として用い、種々のりん光性遷移金属錯体と共担持したナノイオンキャリア試料の光化学物性を評価した。 励起寿命がおよそ1 μsを超えるりん光性錯体を用いた場合に、金属錯体から蛍光色素の励起三重項状態への励起エネルギー移動に由来する消光が観測された。また、この共担持試料においては蛍光色素の励起による錯体のりん光が観測された。これらの結果はナノイオンキャリア内においてはごく少ない量であっても蛍光色素-りん光性錯体の間に励起エネルギーの行き来があると示唆しており、複数種の色素化合物を組み合わせた発光システムを構築するうえで重要な役割を果たすものと期待される。さらにルテニウム(II)錯体と蛍光色素を共担持したキャリア試料における両者の発光強度比は酸素分子の存在に応答して変化し、本系が発光強度比による高感度かつ定量的な検出が可能な酸素分子センサーとして機能することを実証した。 補助事業期間全体を通して本研究では、ナノイオンキャリアを中核として様々な色素化学種を複合化した発光システム開発に取り組んだ。ナノイオンキャリアを用いることで、有機化合物では難しい純水中において、強い発光や化学センシングなどの機能の発現を達成した。これらの成果により様々な色素化学種を純水中で利用するための手法を提供できるものと考えられる。
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