研究課題/領域番号 |
19K05508
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
吉田 純 北里大学, 理学部, 講師 (60585800)
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研究分担者 |
佐藤 久子 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (20500359)
渡辺 豪 北里大学, 理学部, 助教 (80547076)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 液晶 / らせん / 分子動力学シミュレーション / 金属錯体 / キラリティー / GI-XRD / ホストゲスト |
研究実績の概要 |
本研究では、構造柔軟性に優れる液晶を「ホスト」として捉え、実際に活用することを目指している。本年度は、ホストとして利用するルテニウム錯体(以下Ru-H)のエナンチオ体における詳細な内部構造を、grazing incidence XRD測定、分子動力学シミュレーション、および各種分光測定により調査した。その結果、Ru-Hは、約5 nmのピッチをもつらせん構造を形成していることを明らかにした。またその内部では、錯体のC3軸と中心位置がらせん軸に対して徐々に回転し、らせん構造を形成していた。このようならせん構造をもつ液晶は、これまでモデルとしては提案されていたが、実際に実験的および計算科学的な証拠を基に明らかにしたのは、本研究が初めての例と思われる。さらにRu-Hへ、置換不活性かつ非液晶性の金属錯体をゲストとして添加する実験を予備的に行った。その結果、Ru-Hに沿って、錯体ゲストが結晶として析出する現象が確認された。これは、Ru-Hがホスト機能を有することを示唆する結果である。 また新たな金属錯体ホストの開発を目指して、トロポロン誘導体を配位子にもつ金属錯体の合成も行い、各種分析による同定を行った。しかし、液晶性の発現が確認できず、室温において液体状態であった。この挙動そのものは興味深い性質であるが、本研究の目的には適さない。そのため、今後用いる液晶性錯体の配位子としてはアセチルアセトン誘導体に特化することを考えている。一方、新たな配位子を検討する中で、ダイベンゾフェナジンの誘導体にカルボン酸を添加すると、カラムナー液晶相が発現することを偶然見出した。今後は、この有機液晶についても、液晶性ホストとして利用可能かを検討したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液晶を舞台としたホスト・ゲスト化学を展開するうえで極めて重要な、ホストの詳細構造を明らかにできた。また、この結果は現在論文として投稿中である。このため、本研究課題は、現時点ではおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
エナンチオ体の構造は明らかになったが、ラセミ体についても構造解析を続けて行う予定である。ラセミ体の構造解析は、キラルゲストとの複合体を考える上で重要な知見を与えると考えている。また、ゲスト分子の取り込み挙動をHPLC等を用いて解析する手法を確立する。そのほか、末端アルキル鎖長を修飾するとホスト機能にどのような影響が現れるかも、合わせて検討したいと考えている。新型コロナウイルスの影響のために、今後十分な実験時間が確保できるかが懸念される。そのため、先に重点的な文献調査を行うことや、現在得られているデータを基に速報として報告することなども検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた会議が中止・延期になったため次年度使用額が生じた。 延期した会議については、本年度に改めて使用する。また、中止となった会議に関する旅費は、物品費に振り分けて使用予定である。
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