研究課題
デルタ、ラムダキラリティーを持ち、キラル光学材料や不斉触媒として利用される金属錯体の多くは、中心に置換不活性な金属イオンをもつ。置換「活性」な金属イオンをもつ場合、そのエナンチオ体は多彩な物性発現が期待される反面、徐々にラセミ化し光学活性を失う。本研究では、液晶性を示す金属錯体を新規に開発し、置換活性錯体のホストとして活用することを目指した。さらに、キラル錯体の振動円二色性(VCD)測定で見られる信号増幅現象についても検討した。まず、これまで当研究室で開発してきた、C8アルキル鎖をもつルテニウム錯体(以下Ru-C8)を光学分割し、エナンチオ体の構造について斜入射X線回折による構造解析を行った。その結果、約5nmのピッチをもつらせん構造を形成していることが示された。さらに、X線回折測定の結果に基づき、分子動力学計算を行ったところ、らせん構造を再現することができた。シミュレーション結果を精査したところ、pi-pi相互作用・メチル基間の立体反発・双極子相互作用が協奏的に働き、らせん構造を形成していることが示唆された。この結果に基づき、このキラル錯体液晶へ、[Ru(acac)3]のラセミ体を混合し、実際にホストとして機能するかを検証した。その結果、錯体液晶のテクスチャーに沿った結晶成長が観測され、液晶性ホストが何らかの影響を与えていることが確認できた。次に、この結晶がラセミ体なのか、エナンチオ体なのかを評価すべく、単結晶X線回折測定を試みたが、結晶が小さく、有意な結果は得られていない。一方、この液晶性錯体において、錯体間に何らかのキラル相互作用が働いているかを調べるため、新たに同一の配位子をもつIr錯体を合成し、これらのVCD測定を行った。その結果、VCDシグナルの増強が確認され、液晶性錯体が、液晶状態において分子間の強い相互作用を生じていることが示唆された。
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