研究課題/領域番号 |
19K05510
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
尾関 智二 日本大学, 文理学部, 教授 (60214136)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポリオキソメタレート / 安定性 |
研究実績の概要 |
Keplerate型の名称で知られる混合原子価球状132核ポリモリブデン酸イオン[Mo132O372(CH3COO)30(H2O)72]42-は、直径約3nmでフラーレン同様の二十面体対称性を示すという興味深い構造をもつ。この化合物は触媒への応用や、複合酸化物の出発原料として注目されている。しかし、溶液中での存在状態や安定性が不明であることが、この系の理解を妨げてきた。本研究では、出発原料のモリブデン化合物の一部を様々な比率でタングステン化合物に置き換えて合成した、タングステン部分置換132核ポリモリブデン酸イオン[Mo132-xWxO372(CH3COO)30(H2O)72]42-の溶存状態を明らかにし、安定性の評価と分解生成物の構造決定を目指す。 2020年度にタングステン部分置換132核ポリモリブデン酸イオン[Mo132-xWxO372(CH3COO)30(H2O)72]42-の溶液中での安定性を評価したことを受け、固体状態での安定性の評価を行うこととした。2021年度は、その手始めとしてタングステンを含まない132核ポリモリブデン酸イオン[Mo132O372(CH3COO)30(H2O)72]42-のアンモニウム塩結晶の安定性を評価した。この化合物は格子定数が約46Åの面心立方格子で結晶化するが、132核ポリモリブデン酸イオン1分子当たりおよそ300分子の結晶水を含み、それらが失われることにより結晶が非常に不安定になる。今年度の研究においては、様々な湿度に調整した雰囲気下で132核ポリモリブデン酸アンモニウム塩結晶を保存することにより、風解に対する結晶の安定性を評価した。その結果、相対湿度97%では結晶構造が保たれているが、84%以下で面心立方格子の結晶構造が失われることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナウィルス感染症拡大防止のため、遠隔授業実施に伴う授業負担の激増があり、研究の実施に支障があったが、次第に遅れを取り戻しつつある。一方、132核ポリモリブデン酸結晶の安定性評価については、当初の想定以上の知見が得られた。それらを総合的に勘案すると、研究はおおむねに進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、タングステン部分置換132核ポリモリブデン酸イオン[Mo132-xWxO372(CH3COO)30(H2O)72]42-の可視光領域における吸収スペクトルの極大吸収波長の変化量が、試料合成時のタングステン/モリブデン仕込み比が少ない範囲ではがわずかであるが、タングステン仕込み比が10%を越えたあたりから、変化量が大きくなる傾向を明らかにした。これは、タングステン導入率が低い段階ではタングステン原子が132核ポリモリブデン酸イオン中のモリブデン五角形ユニットの中心を占めることと関連付けて説明できると解釈していた。しかし、その後の検討で、タングステン仕込み比が低い段階では、タングステン導入率が仕込み比よりも低くなると仮定することでも、極大吸収波長の変化を説明できることが明らかになった。そこで今後、様々な仕込みにて合成を行ったタングステン部分置換132核ポリモリブデン酸イオン[Mo132-xWxO372(CH3COO)30(H2O)72]42-のアンモニウム塩について、ICP発光分析を行うことにより試料中のタングステン/モリブデン比を明らかにする予定である。その結果をもとに、タングステン部分置換132核ポリモリブデン酸イオンの極大吸収波長の変化について、より詳細な検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス感染症拡大防止のため、遠隔授業実施に伴う授業負担の激増があり、研究の実施に支障があったことと、学会のオンライン実施に伴い出張旅費が減少したため、次年度使用額が生じた。翌年度はこの遅れを取り戻すべく、研究を加速・完成させるため、試薬等の消耗品の購入や元素分析料などのために繰越しが必要となる。
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