研究課題
混合原子価球状132核ポリモリブデン酸イオン[Mo132O372(CH3COO)30(H2O)72]42-は、触媒への応用や、複合酸化物の出発原料として注目されている。しかし、溶液中での存在状態や安定性が不明であることが、この系の理解を妨げてきた。本研究では、132核ポリモリブデン酸イオンおよびそのタングステン部分置換体の溶存状態を明らかにし、安定性の評価と分解生成物の構造決定を目指す。2022年度に132核ポリモリブデン酸イオンの分解過程で生じる青色物質についての考察を行い、それが、102個のMo原子が球状に集合したKeplerate型イオンの内部にMoO4四面体が4個程度内包された構造(合計Mo~106核)を持つことを見いだしたことを受け、Keplerate型イオンの内部にMoO4四面体が内包される構造が他にも見られるのか、探索を行うこととした。様々な条件で合成検討を行ったところ、Ba2+イオンを共存させたときに、Mo132核イオンが部分的に分解したBowl型Mo116核ポリ酸の内部にMoO4四面体が5個内包されたMo121核ポリ酸2個を10個のBa2+イオンが連結している新化合物が見いだされた。Mo116核ポリ酸は過去にMuellerによってMo132核ポリ酸から合成されることが報告されているが、その内部にMoO4四面体を内包しているものは初めて見いだされた。Ba2+イオンを共存させることにより、そのような構造が安定化したものと考えられる。このことから、2022年度に見いだされた102核Keplerate型イオンの内部にMoO4四面体が内包された構造も、妥当な構造であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
Bowl型Mo116核ポリ酸の内部にMoO4四面体が5個内包されたMo121核ポリ酸2個を10個のBa2+イオンが連結している新化合物を見いだし、その構造を決定したことは非常に大きな成果であると考えている。一方、Mo~106錯体中のどの場所にMoO4四面体が存在するかなど、Mo~106錯体の詳細な構造を決定するに至っていない。また、タングステン部分置換体の分解中間体についても、結晶構造解析には至っていない。それらを総合的に勘案すると、研究はおおむねに進展していると評価できる。
2022年度に見いだした分解中間体であるMo~106核錯体については、ポリオキソメタレート計算化学の専門家が興味を持っており、共同研究を遂行中である。また、132核ポリモリブデン酸の一部をタングステンに置換したKeplerate型ポリ酸の合成も進めており、その分解生成物の結晶化もあわせて推進する予定である。
2020年度および2021年度の2年間にわたり、コロナウィルス感染症拡大の影響を受けて研究遂行に支障があった。2022年度は収束に向かったものの回復は限定的であり、2年間の遅れを取り戻すほどではなかった。また、対面授業が復活したものの、体調不良者に対する配慮が求められたために、対面・遠隔両方の講義を行わなければならず、授業負担はかえって増加した。それら積年の遅れを2023年度の一年間で取り戻すことができなかったため、次年度使用額が生じた。翌年度はこの遅れを取り戻すべく、研究を加速・完成させるため、試薬等の消耗品の購入や元素分析料などのために繰越しが必要となる。
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Dalton Transactions
巻: 52 ページ: 4678~4683
10.1039/D2DT03999K