研究実績の概要 |
計画に従い、銅-硫黄クラスターの合成例を増やすことから研究をスタートした。その結果、まず、側鎖フェニル基の3,5位に塩素原子を導入した場合には、合成条件により、3種類の錯体の生成を明らかにすることができた。ひとつは硫黄架橋環状八核錯体の+1価種であり、残りの2つはそれぞれ、溶媒に対する溶解性が極めて小さい錯体と類似する環状多核錯体ではこれまで観測されたことのない吸収スペクトルを示す錯体であった。これらは六核錯体の形成が明らかにされている3,5位にメチル基を有する場合とは異なっており、各錯体の構造に興味が持たれる。次に、2,4位に塩素原子を導入した錯体を合成した。その結果、硫黄架橋環状八核錯体の+1価種の生成を確認することができた。関連する2,4位にメチル基を有する場合には六核および八核の2種類の錯体の形成が明らかにされており、さらなる合成条件の検討が必要であると考えられる。一方、環状八核錯体は八核骨格を有するにもかかわらず、電気化学的測定において2つの酸化還元波しか示さない。これはかねてからの疑問点のひとつであり、その原因を明らかにするため、混合配位子錯体の合成を試みた。2種類の配位子を最初に混合してから錯体合成を行ったり、配位子の異なる2種類の錯体を混合することで合成を試みたところ、全く構造の異なる多核錯体の形成は認められたが、その詳細を決定するまでには至らず、目的とする混合配位子錯体を得ることはできなかった。しかし、錯体溶液の上にその錯体の配位子とは異なる配位子の溶液を乗せることによる液-液拡散法にて目的とする混合配位子錯体の合成に成功した。X線結晶解析におけるディスオーダーが激しく、配位子の混合比まで明らかにすることができなかったため、今後は混合する配位子を工夫することで混合比を明らかにするとともに、得られた錯体の酸化還元挙動についても検討を進める予定である。
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