研究実績の概要 |
これまでの研究結果により、側鎖フェニル基の3,5位に塩素原子を導入して得られた錯体は溶解性が乏しかったことから、3,5位にメチル基を導入した場合についてより詳細に検討した。その結果、生成物の構造や酸化数は合成溶媒にも影響を受けることがわかった。具体的には、出発錯体であるアセトニトリル銅(I)錯体([Cu(CH3CN)4]X) X = PF6において、アセトニトリルを合成溶媒として用いた場合には硫黄架橋環状六核錯体の0価種が形成されたが、メタノールを溶媒とした場合には+1価種が得られることが新たに明らかとなった。したがって、硫黄架橋環状六核錯体は、アセトニトリルとメタノールを使い分けることで酸化状態の異なる錯体を得ることができる。さらに、比較のために2,4位にメチル基を導入した銅錯体も合成した。その結果、硫黄架橋環状六核錯体の0価種と硫黄架橋環状八核錯体の+1価種が同時に形成されることがわかった。これまでの研究結果と考え合わせると、側鎖フェニル基の4位に置換基を有する場合には八核錯体を選択的に形成し、2,6位に置換基を有する場合には三核錯体を形成すると考えられる。一方、立体的影響が両者の中間に位置する3,5位あるいは2,4位に置換基を有する場合には、合成条件に依存して六核あるいは八核錯体を形成すると推測できる。次に、これらの研究成果に基づいて硫黄架橋環状六核錯体の0価種を選択的に合成し、犠牲剤、光増感剤、水素生成触媒から成る可視光による水からの水素製造システムにおける六核錯体の触媒作用について検討した。その結果、すでに高い活性を示すことが明らかにされている硫黄架橋三核錯体よりもさらに高い触媒作用を示した。このことは安価な銅を含む錯体が水素生成触媒として極めて有望であることを示唆しており、今後の社会実装を後押しする結果と言える。
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