研究課題/領域番号 |
19K05514
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
満身 稔 岡山理科大学, 理学部, 教授 (20295752)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アクセプター内包多孔性金属ポルフィリン錯体 / 光電荷分離 / 過渡吸収スペクトル / フラーレン / スピン反転 |
研究実績の概要 |
今年度は,4-(メトキシカルボニル)フェニル基とペンタフルオロフェニル基をそれぞれ導入した亜鉛ポルフィリンダイマー錯体1, 2を新規に合成した.これらの錯体を用いてC60との共結晶化を行い,C60内包多孔性亜鉛ポルフィリンダイマー錯体1・C60と2・(C60)1.5の単結晶化とX線結晶構造解析に成功した.錯体1・C60では,錯体1のピリジル基が隣接する亜鉛原子に配位する自己集合によってヘリンボーンタイプの二次元格子を形成し,C60分子はその格子の中で二つのポルフィリンに挟まれて存在していることを明らかにした.さらに,錯体2・(C60)1.5では,シート間にもC60が存在していた.光物性評価に関して,まず,錯体1, 2のDMF溶液における過渡吸収スペクトル測定を行なった.一例として,錯体1について述べる.錯体1では5.51 ns, 442 ns, 112 μsの寿命をもつ化学種が観測され,それぞれ一重項励起状態,三重項励起状態,ラジカル状態に帰属された.つぎに,錯体1について,固体状態における過渡吸収スペクトル測定を行なった.可視光領域ではポルフィリンのソーレー帯とQ帯由来のブリーチングが観測されたが,励起種による吸収をうまく認識できなかった.一方,近赤外領域では,1350 nm付近に2ns,260nsの寿命をもつ成分の吸収帯が観測され,それぞれ錯体1の一重項と三重項の励起状態であると帰属された.さらに,錯体1・C60の固体状態における過渡吸収スペクトル測定を行なったところ,錯体1のみで見られた励起状態のポルフィリンに帰属される1350 nm付近の特徴的な吸収帯に加えて,1150 nm付近にC60のアニオンラジカルに帰属される吸収が観測された.このことから,亜鉛ポルフィリンからC60への光誘起電子移動により光電荷分離が起こり,その寿命は32nsであると見積もられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,亜鉛ポルフィリンダイマー錯体1, 2を新規に合成し,これらの錯体を用いてC60との共結晶化を行い,C60内包多孔性亜鉛ポルフィリンダイマー錯体1・C60と2・(C60)1.5の単結晶化とX線結晶構造解析に成功した.さらに,錯体1, 2のDMF溶液における過渡吸収スペクトル測定では,一重項励起状態,三重項励起状態,ラジカル状態に帰属される吸収を観測している.さらに,錯体1・C60の過渡吸収スペクトルでは,C60のアニオンラジカルに帰属される吸収が観測され,その寿命は32nsであると見積もられた.これらの結果をもとに,現在までの進捗状況は概ね順調に進展していると判断される. 一方,昨年度合成した白金ポルフィリン錯体[Pt(F20TPP)]とC60が3:2 の比でπスタックし二次元相互作用をもつC60包接白金ポルフィリン錯体の光物性評価を行う予定であったが,コロナの影響で共同研究による光物性評価が行えなかった.今年度,光物性評価を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
研究内容 ①多孔性亜鉛ポルフィリンダイマー錯体に基づくアクセプター内包多孔性金属ポルフリンダイマー錯体,②項間交差によるスピン反転を示す金属ポルフィリン錯体に基づくアクセプタ-包接金属ポルフリン錯体. ①では,エチニル基の数が異なる多孔性亜鉛ポルフィリンダイマー錯体を新規に合成し,引き続きC60や他の電子アクセプターとの共結晶化を検討する.また,これまで合成している多孔性亜鉛ポルフィリンダイマー錯体とそれらのC60内包多孔性亜鉛ポルフリンダイマー錯体について光物性を引き続き詳細に調べる.特に,C60内包錯体については,過渡吸収分光法により光電荷分離について評価を行う.②では,C60包接白金ポルフィリン錯体の光物性の詳細を調べるとともに,過渡吸収分光法により光電荷分離を評価する.また,パラジウムポルフィリン錯体を用いて,C60包接パラジウムポルフィリン錯体の共結晶化を検討する.さらに,①,②で得られる結果をフィードバックし,さらなる分子設計と合成・結晶化,光物性評価を行い,研究成果をまとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度,試薬代をわずかに節約して生じた研究費を,次年度に合成を行うエチニル基の異なるポルフィリン錯体の合成用試薬の購入に当てる.
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