研究実績の概要 |
有機蛍光色素の多くは平面構造で,希薄溶液中では強い蛍光を示すが,高濃度溶液中では分子がぴたりと積み重なった集積構造を形成して凝集起因消光(aggregation-caused quenching,ACQ)を起こす。そのため,有機蛍光色素による蛍光分析試薬は,高濃度溶液中での検出感度や定量性が低下する。 そこで本研究では,分子内に回転運動が可能な嵩高い置換基を導入することで,希薄溶液中では熱放射を伴う無輻射過程が勝り無蛍光で,高濃度溶液中では回転運動の抑制と集積構造の取り難さにより蛍光強度が増大する凝集誘起発光(aggregation-induced emission,AIE)を利用した,高濃度溶液中での検出感度と定量性に優れ,生体蛍光プローブとして最適な650 nm~900 nmで発光する近赤外蛍光分析試薬の構築を目指す。 2019年度は,当研究室で優れた吸収・発光特性が見出された分子内電荷移動(intramolecular charge transfer,ICT)型の有機蛍光色素である2-アミノトリプタンスリンの2-位のアミノ基に,回転運動が可能な嵩高い置換基としてフェニル基を導入した2-(N,N-ジフェニルアミノ)トリプタンスリン等,幾つかのトリプタンスリン誘導体及び類縁体を合成し,その吸収・発光挙動について調べた。 その結果,例えば,2-(N,N-ジフェニルアミノ)トリプタンスリンはAIEや固体発光を示すことが明らかとなり,その内容については論文にまとめ,査読付き学術論文誌(Transactions of the Materials Research Society of Japan, 2019, 44 (4), 153-156)で公表した。
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