有機蛍光色素の多くは平面構造で,希薄溶液中では強い蛍光を示すが,高濃度溶液中では分子がぴたりと積み重なった集積構造を形成して凝集起因消光 (aggregation-caused quenching,ACQ)を起こす。そのため,有機蛍光色素による蛍光分析試薬は,高濃度溶液中での検出感度や定量性が低下する。 そこで本研究では,分子内に回転運動が可能な嵩高い置換基を導入することで,希薄溶液中では熱放射を伴う無輻射過程が勝り無蛍光で,高濃度溶液中では回転運動の抑制と集積構造の取り難さにより蛍光強度が増大する凝集誘起発光(aggregation-induced emission,AIE)を利用した,検出感度と定量性に優れ,生体蛍光プローブとして最適な650 nm~900 nmで発光する近赤外蛍光分析試薬の構築を目指している。 2022年度は,引き続き,当研究室で優れた吸収・発光特性が見出された分子内電荷移動(intramolecular charge transfer,ICT)型の有機蛍光色素である2-位に電子供与性置換基を有するトリプタンスリンを基本骨格とし,回転運動が可能な嵩高い置換基を導入したトリプタンスリン誘導体及び類縁体を更に合成し,その吸収・発光挙動について調べた。その結果,幾つかの系で,AIE挙動を示すことが確認できた。 また,研究の過程で得られた知見を論文にまとめ,査読付き学術論文誌に投稿し,論文が掲載された。
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