本研究では、生体サンプル中の微量タンパク質成分を対象とした構造解析技術の開発を進めている。今年度は陰イオン交換固相抽出ディスクをピペットチップ内に装填したマイクロリットルサイズのスピンカラムをタンパク質消化ツールとして使用したサンプル前処理法AnExSP (anion-exchange disc-assisted sequential sample preparation)を開発し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で分離した化学架橋タンパク質複合体サンプルの質量分析を実施した。
固相抽出ディスクの表面にタンパク質を捕獲できるAnExSPでは、微量サンプルを濃縮して効率的に酵素消化を実施することが可能であり、通常15時間を要するトリプシン・Lys-C消化処理が最短60分で完了した。さらにサンプルに含まれるSDSやCBB色素をディスク上に保持したまま、消化ペプチドをディスクから溶出する最適条件を確立することにより、最小限の損失でサンプル前処理を完結することが可能であった。確立した手法をDIA(Data Independent Acquisition)質量分析と組み合わせることにより、ヒト培養細胞のタンパク質抽出物1μgから約7000種類のタンパク質を検出することに成功している。AnExSPは、SDS-PAGEで分離したタンパク質の前処理にも適用可能であり、従来のゲル内で実施する酵素消化法(インゲル消化法)と比較して、特に長鎖の消化ペプチドの検出において優れた性能を発揮した。本研究で我々はAnExSPとSDS-PAGEを、質量分析用架橋剤DSBUを用いたタンパク質の化学架橋法と組み合わせることにより、DSBU架橋ヘモグロビン複合体を簡易に精製して、インゲル消化法で困難であった長鎖の架橋ペプチドを効率的に検出することに成功している。
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