研究課題/領域番号 |
19K05528
|
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
新留 康郎 鹿児島大学, 理工学域理学系, 教授 (50264081)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 金ナノ粒子 / 質量分析 / マスプローブ / 合金ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
金や金銀合金ナノ粒子のレーザー脱離イオン化挙動の解明をめざした研究を行った。金・銀イオンそれぞれの脱離効率が、ナノ粒子の形状や表面状態や金銀合金の割合にどのような影響を受けるかを検討し、金属イオンのレーザー脱離挙動を解明した。ナノロッドにレーザー光が照射されるとナノロッドは球状粒子に変換されて分光特性が大きく変化する。この原理を用いてMALDI-MS装置のパスルレーザー光の照射される範囲を確認し、照射範囲にあるナノ粒子の数とマスシグナル強度との相関を調べ、単粒子分析が可能であることを示した。餌に金ナノ粒子を混入し、血中に移行する極微量のナノ粒子の体内動態を評価するための予備実験を進めてきた。従来の金ナノ粒子ではシグナル強度が小さくなったときにノイズと区別が難しくなった。そのために、本研究では金・銀合金、さらに金・パラジウム合金ナノ粒子を作製した。これらの粒子をゼラチンに分散し、 切片化しイオン化挙動を検討したところ、それぞれ金イオンに加えて、銀イオンとパラジウムイオンの脱離が観察できた。これらの粒子がマスプローブとして機能することを明らかにできた。これら合金ナノ粒子の物性を明らかにするために、電気化学測定や抗菌活性評価を進めた。金銀合金ナノ粒子は、少なくとも金が50%以上含まれている場合は、電気化学的に安定であり、銀イオンの溶出はほとんど無視できることがわかった。金50%の合金ナノ粒子が抗菌活性を示さないこととも整合性が得られた。ナノ粒子プローブをマイクロプラスチックビーズに固定する技術も開発した。金銀合金ナノ粒子は銀イオンを高効率に脱離し、2種類の同位体を有する銀は夾雑イオンとの識別が容易であり、1週間以上の体内動態の追跡が可能であることがわかった。今後は、環境に拡散したナノ粒子・マイクロ粒子の高感度検出を通して、ナノ材料の環境リスクを評価する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
暗視野顕微鏡を用いて粒子1個ずつ観察する技術を開発し、ナノ粒子1個あたりのマスシグナル強度を算出した。粒子の分散状態を維持したまま金ナノ粒子に銀やパラジウムのシェルを成長させ、パルスレーザー光によってコアシェル粒子を合金化する技術を確立した。TEM観察によってシェルの生成とレーザー光照射による合金化の様子を明らかにすることができた。合金ナノ粒子に抗体を固定し、ドットブロッティングに利用できることを確認した。免疫染色に合金ナノ粒子を用いるという新しい成果であり、学術論文にまとめて報告した。合金ナノ粒子は電気化学測定においても高い安定性を示すとともに、抗菌活性が低く、生体親和性が高いことを確認できた。合金ナノ粒子を魚に経口投与すると、その後1週間にわたって体内動態を追跡できることを明らかにできた。経口摂取したナノ粒子の一部が長期間にわたって生体内に残存することは大きな発見であり、今後のナノ材料のリスクを考える上で重要な知見である。成果を取りまとめて学術論文として報告する準備中である。金銀合金ナノ粒子と金パラジウム合金ナノ粒子の組み合わせを用いて、抗原抗体反応が起きたときだけ銀パラジウムクラスターが生成するシステムの構築に成功した。この検出方法はバックグラウンドシグナルが小さく、質量分析装置の高感度を活かせる先端的な手法である。この技術は鹿児島大学を出願人として特許を出願した。特許の範囲内で成果を整理して学術論文として報告できるように準備中である。
|
今後の研究の推進方策 |
複数の合金ナノ粒子を用いた免疫検出に関わる特許出願の技術を発展させ、新しいタイプのマスプローブの動作原理を確立する。新しい知見は適時特許申請し、知的財産としての価値の確保をめざす。合金ナノ粒子の体内動態の追跡については、抗体をなどのタンパク質(あるいはオリゴペプチド)の修飾によって動態がどのように変化するかを明らかにする。一連の成果は学術論文として少なくとも年度内に報告する。金属イオンの脱離を計測する方法に加えて、白金ナノ粒子による表面支援脱離イオン化(SALDI)による有機物イオンを分析し、体内動態の変化に伴う粒子近傍の環境変化を評価することを試みる。これまでに基本的な実験手順を確立し、さらに数百個におよぶ有機物脱離イオンのシグナルを解析するプログラムを用意できた。ナノ粒子がトラップされている組織によって脱離するイオンが異なっていることはほぼ確実であり、ナノ粒子が存在しているのがどの臓器であり、さらにどのような組織なのかを質量分析だけで明らかにできる目処が立った。今後白金ナノ粒子のサイズや表面修飾を変えて、体内動態と脱離イオンの相関を明らかにし学術論文として投稿する。合金ナノ粒子の電気化学特性と抗菌活性は、金銀の構成比率を合金ナノ粒子について一通りのデータが揃っている。早急に論文にまとめて投稿する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で研究室への学生の立ち入りが禁止された影響もあり研究の進捗が大きく遅れた。学内の分析機器使用料は予想通り大幅に増えたが、それでも当初予定よりも使用頻度が少なくなった。また、学外の共用分析機器を利用する機会が失われたため、旅費を使うことができなかった。次年度使用の予算は機器使用料に充当する。最終年度にあたり、実験データの中核となるべき質量分析装置の利用料金は昨年度を大きく超えて増えることは確実である。次年度請求の助成金と併せて、所期の研究目標を達成するよう研究活動を加速する。
|