研究課題/領域番号 |
19K05539
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岩橋 崇 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (30402423)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電気二重層 / 電極界面 / 電気化学 / 和周波発生振動分光 / SFG / in situ計測 / ヒステリシス / 過電圧 |
研究実績の概要 |
電解液/電極界面は電気化学反応場として機能する根源的なナノ領域であり、当該界面に形成される電気二重層(EDL)は系の電気化学特性を支配する。これまでEDL構造は古典的なEDLモデルに基づいて検討されてきたが、近年既存モデルで説明できないEDL構造の電位応答ヒステリシスが確認された。故に、EDL構造の電位応答の精確な理解には当該ヒステリシス挙動の要因究明による新規理論モデル構築が求められる。本研究は赤外-可視和周波発生振動分光(SFG)と電子分光各種を相補的に用いて電気二重層形成におけるイオン交換のポテンシャル障壁を実験的に検証し、ヒステリシス要因の解明を目指す。 2020年度は前年度に確立したイオン吸着・脱離過電圧の定量測定技術を用い、ヒステリシス挙動が顕著なイオン液体/電極界面における電位応答ヒステリシスのイオン種依存性を検討した。まず、カチオン種を固定してアニオン種を変化させると、アニオン脱離過電圧はアニオン種に依存して大きく変化したが、カチオン脱離過電圧はアニオン種に依存せず非常に小さな値を示した。これは主にイオン吸着種の脱離過程がイオン液体/電極界面のヒステリシス挙動に寄与することを示唆する。続いて、アニオン種を固定してカチオン種、ここでは正電荷を直接担わないアルキル鎖構造を変化させた場合、カチオン脱離過電圧は鎖長に依存せず非常に小さな値を示した。これはカチオン吸着に直接寄与するカチオンコア構造が変化していないためと解釈される。一方、アニオン脱離過電圧はアニオン種を変化させた場合より変化量が少ないものの、アルキル鎖長に依存して変動した。以上から、イオン液体/電極界面の電位応答ヒステリシスは主にイオン吸着種の脱離過程に特徴づけられるが、二層目に存在する対イオンもイオン脱離過電圧に寄与することが分かった。なお、本成果は学会にて報告済みであり、現在学術論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前項「研究業績の概要」にて述べたとおり、イオン吸着・脱離過電圧の定量測定技術により、イオン液体/電極界面の電位応答ヒステリシスは主にイオン吸着種の脱離過程によって特徴づけられるが、二層目に存在する対イオン種もイオン脱離過電圧に寄与することを明らかとした。すなわち、本研究の目標であるヒステリシス挙動を記述可能な新規EDLモデル構築において、特に重要なヒステリシス要因に関する新たな情報が得られたことから、研究は概ね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度のイオン液体/電境界面における電位応答ヒステリシスのイオン種依存性の検討から、アニオンとカチオンの脱離挙動には大きな差異があり、Pt電極表面からのアニオン脱離過電圧は大きいがカチオン脱離過電圧は非常に小さい傾向にあることが分かった。これは基本的にイオンを電荷のみと捉える既存のEDLモデルの延長ではヒステリシス挙動を記述できず、イオンの特異吸着性、特にイオン-電極間相互作用のイオン種・電極種依存性を考慮する必要があることを示唆する。そこで、2021年度は電気化学界面の電位応答ヒステリシスのイオン種依存性だけでなく電極種依存性の評価を行い、量子化学計算も活用することでイオン-電極間相互作用の寄与の精査、並びにイオンの特異吸着性の理論的取り扱いの検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の余剰金の発生はコロナ禍のため参加を予定していた学会・研究会や実験のための出張がキャンセルとなったためである。そこで、次年度使用額は可能であれば主に2020年度に実施できなかった出張実験の旅費に使用する予定であるが、もし本年度も出張実験が困難の場合は電解液や電極材などの消耗品費として計上する予定である。
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