研究課題/領域番号 |
19K05541
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
永谷 広久 金沢大学, 物質化学系, 教授 (90346297)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 液液界面 / 分光電気化学 / デンドリマー / 生体膜模倣 / イオン性薬剤 / アントラサイクリン |
研究実績の概要 |
アントラサイクリン系抗がん剤であるドキソルビシン(DOX)およびダウノルビシン(DNR)の水|有機溶媒界面およびリン脂質膜が吸着した生体膜模倣液液界面における膜透過反応機構を研究した。基礎検討として,電気化学解析からDOXとDNRのイオンパーティションダイアグラムを決定し,電位やpHに依存して変化するイオン種の相間分配平衡の物理化学的パラメーターを決定した。生体環境に近いpH 7付近において,一価のカチオンであるDNRとDOXの液液界面における反応機構を電位変調蛍光分光法で解析したところ,DNRでは界面を横切るイオン移動とそれに付随する正電位側における界面吸着,DOXでは単純なイオン移動のみが生じ,僅かな官能基の違いで薬剤分子の界面反応機構が変化することを明らかにした。また,生体膜模倣液液界面では,DNRとDOXの界面反応機構がリン脂質膜との相互作用やpHに依存して大きく変化することを明らかにした。さらに、水溶性多分岐高分子の一種であるポリアミドアミンデンドリマーとの静電的な相互作用により,DNRのイオン移動電位が変化することを見いだした。電位シフトからイオン会合体形成の熱力学的パラメーターを評価し,デンドリマーがアントラサイクリン系薬剤に対して分子キャリアとして有効であることを明らかにした。デンドリマーが負に帯電するpH条件ではDNRとの会合体形成が生じるのに対し,より親水的なDOXでは明瞭な相互作用は見られなかった。生体膜模倣液液界面では,薬剤分子とリン脂質およびデンドリマーとの相互作用が複合的に影響し,複雑な反応過程が生じていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的としていたアントラサイクリン系抗がん剤の膜透過反応機構の解析については必要な実験をほぼ終えており,次の主要な研究対象となる薬剤系についても予備検討を既に開始している。また,分光電気化学計測システムを改良することで迅速な測定を可能とし,今後の実験を効率的に実施できることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
抗がん剤であるアントラキノン系薬剤について,液液界面および生体膜模倣液液界面での反応挙動を明らかにする。イオン種の界面領域における相間移動や吸着過程の動的解析が行える電位変調蛍光分光法と吸着化学種の高選択な状態分析が可能な偏光変調全内部反射蛍光分光法を併用することにより,膜表面における吸着状態の詳細な解析を試みる。また,並行してテトラサイクリンなどの各種抗生物質の界面反応について基礎検討を進め,分子構造とイオン移動,膜表面における吸着反応挙動の相関を明らかにする。イオン種の分子キャリアとして期待される多分岐高分子については,末端官能基だけでなく,ブランチ構造がイオン種の安定包接に与える影響について検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の変動により生じた残金は次年度物品費として使用する。
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