研究実績の概要 |
アントラサイクリン系およびアントラキノン系抗がん剤,テトラサイクリン系抗生物質などの種々のカチオン性薬剤について,水と1,2-ジクロロエタン(DCE)の液液界面およびリン脂質膜を形成させた生体膜模倣界面での反応挙動を分光電気化学的に研究した。また,ドラッグデリバリーシステム(DDS)における薬剤キャリアとして期待されるポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーと抗がん剤の相互作用を詳細に検討し,薬剤の相間分配機構への影響を明らかにした。pHに依存して電荷が正から負に変化する第3.5世代PAMAMデンドリマーを用いた場合,アントラサイクリン系薬剤の官能基の僅かな違いでデンドリマーとの相互作用が変化し,生体内の正常組織の条件に近いpH 7.4付近では明瞭なイオン会合体形成が見られたのに対し,弱酸性条件下では会合体形成が弱くなった。水相-DCE相間の相間移動についてもイオン移動電位の変化から定量的な検討を行い,中性条件下ではデンドリマーが薬剤の相間移動を阻害する効果を示すのに対し,pH低下を伴う腫瘍近傍に近い弱酸性条件下ではデンドリマーと薬剤が容易に解離して相間移動が比較的容易に生じることを明らかにした。このことは,デンドリマーがpHや膜電位に応答する刺激応答性薬剤キャリアとして機能する可能性を示すものであり,DDSへの応用が期待される。さらにリン脂質膜共存下の生体膜模倣界面では,アントラサイクリン系薬剤が脂質との相互作用によって促進移動されることも見いだした。アントラキノン系抗がん剤でも同様にデンドリマーとの相互作用による界面反応機構や相間分配平衡への影響,生体膜模倣界面での反応挙動を定量的に解析することに成功したほか,テトラサイクリン系抗生物質の基礎的な相間分配平衡と界面反応機構の解明も終えることができた。
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