研究課題/領域番号 |
19K05544
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
増田 豪 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 助教 (70383940)
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研究分担者 |
宇都 甲一郎 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 独立研究者 (30597034)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プロテオミクス / 高感度分析 / 1細胞オミクス / 油中液滴 |
研究実績の概要 |
タンパク質はDNAのように増幅することができない。そのため、1細胞プロテオミクスを実現するには、細胞から回収されたタンパク質をいかに損失することなく質量分析計に到達させるかがポイントとなる。申請者は、油中に形成した微少な液滴中でタンパク質の前処理をすることで、プラスチック容器との接面積が縮小し回収率が劇的に改善することを見出している。また、液滴にビーズを添加することで回収率が上昇することも見出している。本申請課題では、この油中液滴法を改良することで1細胞プロテオミクスの達成を目指している。 2019年度は、最適油層組成の探索、油中液滴法に使用するビーズの探索、タンパク質疑似増幅法の開発および油中液滴法容器の開発を行った。 最適油層の探索において、6種類の有機溶媒を用いて油中液滴法を行った。酢酸エチルで形成された油中液滴で前処理を行うことでペプチドの回収率が最も高かった。ビーズの探索において、カルボキシル基、アミノ基もしくはスルホニル基を表面に提示したビーズを用いて、油中液滴法によりプロテオミクスを行った。カルボキシル基を提示するビーズにおいて、スルホニル基およびアミノ基ビーズに比べてそれぞれ約2.5倍および約1.5倍にペプチドの同定数が増加した。タンパク質疑似増幅法の開発では、Budnikらが報告したSCoPE法を基盤とした。TMT 10plexを用いて、油中液滴中における10 ngのペプチドに最適な標識試薬量およびTMT試薬溶媒を探索した。無水アセトニトリルで溶解したTMT試薬をペプチドに対して30倍重量を添加することで標識率は99%以上となった。油中液滴法に適した容器の開発では、撥液素材の開発を行った。プロテオミクスでは試用していないものの、液滴と容器との摩擦が低下した。 今年度は計画通りに進行している。いずれも1細胞プロテオミクスを達成するために前向きな結果だった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、最適油層組成の探索、油中液滴法に使用するビーズの探索、タンパク質疑似増幅法の開発および油中液滴法容器の開発を行った。油中液滴における油層の組成およびビーズの種類も確定し、全体的には予定通り進行した。一方で、TMT試薬を用いたタンパク質疑似増幅法では、100個の細胞由来に相当する10 ngのペプチドについては条件が確定したが、この条件が1細胞由来のペプチドにも適用できるかは不明である。この点は次年度に持ち越し最適化を行う。また、容器開発において超撥液処理方法が確立した。本前処理方法を基盤として容器のプロトタイプを次年度に開発したい。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度では油中液滴組成が確立したため、2020年度では予定通り自動ハンドリングロボットへの適用を行う。また、油中液滴法容器の開発において、2019年度には超撥液化処理できたので、2020年度には平底96 wellプレートの底面中心部を1点だけ親水処理し、それ以外を超撥液化処理する。一方で、TMT試薬を用いたタンパク質疑似増幅法では、2019年度に油中液滴における10 ngのペプチドについて、標識効率が99%以上を示す条件を確立できた。2020年度では、1細胞相当のペプチド(0.1 ng)にも本方法が適用できることを確認する。
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