研究課題/領域番号 |
19K05547
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
満塩 勝 鹿児島大学, 理工学域工学系, 助教 (70372802)
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研究分担者 |
肥後 盛秀 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (10128077) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 表面プラズモン共鳴(SPR) / 多機能センサー / 偏光 / 角型ガラス棒 / 温度補正 / X線光電子分光法 / 金薄膜 / 酸化金 |
研究実績の概要 |
SPR現象はP偏光のみで励起され、S偏光では起こらない。これを利用し、断面が正方形の角型のガラス棒と偏光を組み合わせて応答する面を制御できるセンサーシステムを構築して性能を検証すること、および金の膜厚および状態の違いにおける応答の検討に関する研究を行うことが2019年度の計画である。 センサーシステムの開発と性能の検証について、光源に発光ダイオード(LED)、受光部に偏光ビームスプリッタと二つのフォトダイオード(PD)を用いた装置の構築を行い、金を蒸着した角型ガラス棒センサーからの応答が得られるかどうかの検証を行った。本研究においては申請時に想定した通りの応答が得られることが確かめられた。 金の膜厚の違いにおける応答の検討については、前述したセンサーシステムを用い、1面または隣接した2面に対して様々な膜厚の金薄膜層を形成して屈折率に対する応答を観測した。これらの比較の結果から、膜厚によって応答特性が制御できることに加え、2面の応答が独立して測定できることが確認できた。この結果は理論計算による各膜厚の応答とも良く一致した。また、金の状態の違いによるSPR応答の違いの検討として、金と酸化金のSPR応答の比較を行い、表面を酸化する事で全く異なる応答が得られることも分かった。 研究計画における二つの異なる機能を持ったセンサーの開発は2020年度実施の予定であり、本年度はその予備実験を行った。角型ガラス棒センサーの2面に金を蒸着し、1面をシリコーンゴムシートで覆うことで、温度の変化をシリコーンゴムシートの屈折率変化として観測することを試みた。その結果、シリコーンゴムシートで被覆した面は温度変化のみに応答する様子が観測され、これを用いて試料の温度変化を補正できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
始めに光源として無偏光の発光ダイオード(LED)、受光部として偏光ビームスプリッタと二つのフォトダイオード(PD)を組み合わせた装置を構築し、隣接する2面の同時測定についての評価を行った。2 mm角の角型ガラス棒の1面のみに45 nmの金薄膜層を形成して測定を行ったところ、金面に対するP偏光では良好なSPR応答が得られたが、S偏光(隣接する面に対するP偏光)ではSPRの影響を受けないことが確かめられた。次に、1面に30 nm、隣接するもう1面に70 nmの金を蒸着して屈折率に対する測定を行ったところ、それぞれの膜厚に対応したSPR応答特性が得られ、この応答はセンサーの1面のみに各膜厚の金を蒸着した場合や3層フレネル等式による理論計算とも一致した。これらの結果から、隣接する2面の応答の独立した測定が可能であることが証明できた。 次に温度補正に関する予備実験として、5 mm角の角型ガラス棒の隣接する二つの面に45 nmの金薄膜層を形成し、一つの面の金を厚さ2 mmのシリコーンゴムシートで被覆し、無被覆の面で濃度と温度に依存した試料の屈折率、シリコーンゴムシート面で試料温度に依存したシリコーンゴムシートの屈折率を測定した。温度が約40℃から30℃へ変化した場合において、シリコーンゴムシート面の応答を用いて試料屈折率の応答を補正し、濃度のみの応答とする事に成功した。しかし、シリコーンゴムシートは特にアルコールを浸透させやすく、長時間の測定などで応答が安定しなくなることが分かり、本課題において解決すべき問題の一つとなった。 最後にSPR現象を励起するための金の状態とSPR応答との関係について検討を行い、酸化金は金とは全く異なるSPR応答が得られることと、酸化金は水などの安定した試料に浸漬してから少なくとも15分は安定したSPR応答を示すことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に作製したセンサーシステムが想定通りの性能を示したため、これを光学的に正確な配置に固定できるように治具を作製し、システムのアッセンブリー化および性能の安定化を図る。また、角型ガラス棒センサーの基本的な応答特性についてさらに研究を進め、より高感度かつ高精度の応答が得られる金属種や膜厚、LEDの発光波長や放射角など、最適条件の模索を続ける。同時に最良の温度検知用のシートの探索や手法の模索を行う。2019年度の未使用額の多くをこの研究計画に投入する予定である。 また、金の状態とSPR応答との関係に関する研究を2020年度中に終了させ、2021年度からのシステムの実証実験に注力できるように体制を整える予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画立案時に機能膜として使用できる膜を探索する必要があるため、多種の高価な素材の購入を想定して消耗品を計上していたが、2019年度は比較的安価なシリコーンゴムシートが良好な応答を示すことが分かり、この評価に注力したため予想よりも少ない使用額となり、次年度使用額が発生した。しかし最良の膜の探索やエタノールがシリコーンゴムシートに浸潤する問題の解決を図る必要があるため、2020年度は未使用額を物品費とこれらの成果を発表するための旅費に加算し、研究費の使用計画を修正する予定である。
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