研究課題/領域番号 |
19K05548
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
鈴木 雅登 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (60574796)
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研究分担者 |
安川 智之 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (40361167)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電気回転 / CAR-T / 細胞膜容量 / マイクロウエル / 電気生理 |
研究実績の概要 |
本研究の特徴は,単一細胞を捕捉可能なマイクロウエルに対して4本の電極を配置させたマイクロウエル型電気回転デバイスを基盤として,外部刺激によって誘導される細胞電気特性(細胞膜容量,細胞質導電率)の変化を,外部より印加した交流電場との静電的な相互作用によって細胞に作用する力として一括に検出することにある.最終的には,このデバイスを白血球T細胞の免疫的な活性化に伴うサイトカインの分泌を非接触に標識を必要としない分析法の確立し,遺伝子改変されたT細胞(CAR-T)のスクリーニングへ応用する. 本年度は,ウエルを有さない3次元電気回転デバイスを作製し,このデバイスを用いて約1,000個の単一細胞に対して一括で電気回転行えることを実証した.電気回転速度から細胞膜容量を算出し,細胞膜容量の異なる4種類の細胞を回転速度から識別できることを明らかにした.さらに膜容量の減少を誘導することが報告されているイオノマイシンで処理前後のT細胞のモデル細胞であるJurkat細胞の電気回転速度を比較した結果,イオノマイシン処理によって電気回転速度が有意に減少することが明らかになった. これらの結果は,免疫細胞の活性化に伴う細胞膜容量の変化を電気回転速度によって非侵襲的に検出するという本研究の根本的な仮説を実証する結果である.つまり,電気回転速度の変化を指標とした免疫的に高活性なCAR-T細胞の選別の実現が期待できる.しかし,現在のデバイスではウエルを有さないため,リアルタイムでの免疫活性化剤の添加に伴う電気回転速度の変化の計測を行うことができていない.今後は,ウエルを有した電気回転デバイスの開発とCAR-T細胞構築用のCAR遺伝子を構築し,免疫活性化を促す抗原タンパク質添加時のCAR-T細胞の電気回転速度の変化の検出を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の最大の進捗は,T細胞のモデル細胞であるJurkat細胞のイオノマイシン刺激による活性化を3次元電気回転デバイスによって電気回転速度の変化として検出できた点である.この結果は本研究テーマの根幹である免疫細胞の活性化の非侵襲的な検出を裏付ける結果であり大きな進捗である.以下に具体的な進捗を記載する. 溶液の刺激ができ一度に複数の細胞の電気回転計測が可能なデバイスの実現に向けて,本年度はマイクロウエルを持たない電極を試作し,まず複数の細胞への一括電気回転の実証を行った.2枚のくし形電極を直交させることで4本のマイクロバンド電極で囲われたマイクログリッド形成させた.それぞれのマイクロバンド電極に位相を90°ずつ変えた交流電圧の印加によって各グリッド内に回転電場を形成させ,それぞれのグリッド内で細胞を電気回転させた.このデバイスによって一度に約1,000細胞の電気回転を行うことができ,この電気回転速度を解析することで個々の細胞の膜容量を算出した.従来の電気回転デバイスは1回の実験に1細胞の評価しか行えず,本デバイスの利用によって一回の実験で処理可能な細胞数の飛躍的な増加が実現できた. このデバイスを用いて,1 μM ionomycin で刺激前後でのJurkat細胞の回転速度を計測した.添加前のJurkat細胞群の平均回転速度と比較して,ionomycin添加後のJurkat細胞群から得られた回転速度は20%減少した.この結果はJurkat細胞の活性化を電気回転速度の変化として検出できることを示している.また,このデバイスを用いて膜容量が異なる4種類の細胞(Jurkat,THP-1,K562,WEHI-231)の電気回転速度を計測した結果,それぞれの回転速度から細胞の種類が識別できることを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
マイクロウエルを有した電気回転デバイスの試作を行う.マイクロウエル底面に2本,マイクロウエル上面に2本のマイクロ電極を有するウエル型電気回転デバイスを通常のフォトリソグラフィを用いて作製する.細胞の電気回転速度の視認性を高めるために基板にはガラス基板を用い,電極は透明導電性電極ITO,マイクロウエルは透明の厚膜レジストであるSU-8を用いる. CAR-T細胞を作製しその機能を評価する.白血病細胞に発現するCD33抗原に対するCARをJurkat細胞に発現させ,CD33添加前後での電気回転速度を計測する.回転速度は印加する周波数と細胞膜容量に依存し,膜容量の増加に伴い最大回転速度は低周波数側にシフトする.これを利用して免疫活性化によるサイトカイン類の分泌を伴う細胞膜形状の変化に由来した膜容量の変化を上記のウエル型の電気回転デバイスを用いて電気回転速度で捉える.本原理検証のために免疫活性化しない不活性型CARを作製し,CD33で刺激した際の回転の変化をCARと不活性型で比較する.速度の変化量の識別が困難な場合,分泌サイトカイン類に対する抗体をT細胞表面上に固定化し細胞膜上にサイトカインを濃縮させ膜容量を大きく変化させる工夫を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により年度末に計画していた国内外への学会参加の中止や,研究活動の一部自粛により次年度使用額が生じた. 研究活動の遅れを取り戻すためにデバイス開発を加速させる.そのために一定期間デバイス作製専任の技術印員を雇用する.その人件費に次年度使用額を充当する.
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