研究課題/領域番号 |
19K05548
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
鈴木 雅登 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (60574796)
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研究分担者 |
安川 智之 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (40361167)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電気回転 / CAR-T / 細胞膜容量 / マイクロウエル / 電気生理 |
研究実績の概要 |
本研究の特徴は,単一細胞を捕捉可能なマイクロウエルに対して4本の電極を配置させたマイクロウエル型電気回転デバイスを基盤として,外部刺激によって誘導される細胞電気特性(細胞膜容量,細胞質導電率)の変化を,外部より印加した交流電場との静電的な相互作用によって細胞に作用する力として一括に検出することにある. 本年度は,本研究の最大の特徴である,マイクロウエルを有した電気回転デバイスを作製した.マイクロウエル底面に2本,マイクロウエル上面に2本のマイクロ電極を有するウエル型電気回転デバイスを通常のフォトリソグラフィを用いて作製した.細胞の電気回転速度の視認性を高めるために基板にはガラス基板を用い,電極は透明導電性電極ITO,マイクロウエルは透明のエポキシ系のレジストを用いた.一度の実験で最大で225個の細胞をマイクロウエルへ捕捉した状態で電気回転の誘導が可能でデバイスを構築した. このデバイスにJurkat細胞を導入した.数分間のインキュベーションによって細胞の自重によってウエルに捕捉されウエルへの単一細胞の捕捉は70細胞程度であり30%程度の充填率であった.4つのマイクロ電極への位相を90°ずらした交流電圧の印加によってマイクロウエル内に交流電場を誘導し,ウエル内の細胞を電気回転させた.300kHzの周波数の印加によって,細胞が一定の速度で電気回転することを実証した. 本デバイスの最大の特徴はマイクロウエル内で細胞の電気回転を誘導する点である.ウエル外の溶液に流れが生じてもウエル内の細胞は一定の速度で電気回転することが判明した.細胞はウエルに捕捉されているため,電気回転中に別の細胞の混入や,ウエルからの細胞の損失も生じず,数分間にわたって電気回転計測の計測が可能であった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の最大の成果はマイクロウエルをもつ電気回転デバイスの具現化にある.電気回転は誘電泳動と比較して,細胞膜容量や細胞質導電率といった細胞の電気特性の高感度な検出が可能である.しかし,通常の電気回転は,1回の計測で1細胞しく評価ができず処理量に課題がある.また,計測中の細胞の散失や他の細胞の混入という課題がある. 本研究課題のマイクロウエルを有する電気回転デバイスはこれらの課題を解決する世界初のウエル型の電気回転デバイスである.の電極デバイスを用いて,一度に一回の実験で複数の細胞の電気回転速度の経時変化の追跡が可能であることを示した.Jurkat細胞をマイクロウエルへ捕捉した状態での電気回転の誘導によって,外液の流れの影響を受けることなく,ほぼ一定の回転速度で回転を続けた. Jurkat細胞の活性化剤でありカルシウムイオノフォアであるionomycin添加時の回転速度の経時変化を計測した.ionomycinの添加によって回転速度が6割程度まで減少した.これはionomycinによるJurkat細胞の活性化を電気回転速度の変化としてリアルタイムに検出できたことを示す.今後はこの電気回転デバイスを用いてCAR-T細胞の活性化の電気回転検出を行う. また,CAR-T細胞発現用のプラスミドベクターの構築を完了させた.CAR発現用のプラスミドをエレクトロポレーションによってJurkat細胞に発現させた.発現量は全体の細胞の数%程度であったが,CARの細胞膜の発現が確認できた.プラスミドベクターの使用のため発現効率は数%程度ではあるが,本研究提案の電気回転デバイスは一度に数十個の細胞の電気回転の評価が可能であり,存在量の少ない細胞も十分評価することができる.
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今後の研究の推進方策 |
作製したCAR-T細胞に抗原(CD33)を添加し,CD33添加前後での電気回転速度を計測する.回転速度は印加する周波数と細胞膜容量に依存し,膜容量の増加に伴い最大回転速度は低周波数側にシフトする.これを利用して免疫活性化によるサイトカイン類の分泌を伴う細胞膜形状の変化に由来した膜容量の変化を上記のウエル型の電気回転デバイスを用いて電気回転速度で捉える. CARの発現量が小さい場合や,発現した細胞数があまりに少ない場合は,CAR発現用のウイルスベクターを構築しCARの発現量を増加させる.また,抗原による単一CAR-T細胞の免疫活性化の確認は,細胞表層法を利用する.T細胞表面上に捕捉材料を固定化し免疫活性化に伴って分泌されるサイトカイン類を細胞膜上に捕捉する.この捕捉量と細胞回転速度を対応させ,免疫応答の強弱と回転速度の関係を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の影響で参加を予定していた,国際学会,国内学会が中止もしくは,オンラインでの開催となった.そのため,当初の計画より旅費に余剰が生じた. この余剰分はCAR-T遺伝子作製のための遺伝子合成やJurkat細胞への遺伝子導入試薬などの物品費へ充当し,研究開発を効果的に推敲させる.
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