研究実績の概要 |
基材としての紙に数μm程度の流路を作製し,フロー分析に利用する方法であるmicrofluidic paper-based analytical device(μPAD)は, 小型分析機器や迅速診断キットを用いて医療現場で行うリアルタイム検査やオンサイトでの環境計測において重要である。しかしながら,これまで報告されているほとんどのμPAD は検出感度が低いので, 生体試料や環境試料中の極微量成分を高感度,高精度に定量できないという欠点がある.そこで,本研究では,測定に有毒な有機溶媒を用いず,低コストかつ迅速で簡便,さらに高感度である環境汚染物質であるイオン性界面活性剤(IS)の定量法の開発を目的としている.すなわち,化学的に改質された紙相にISを予備濃縮した後,μPADに組み込まれたオプトードに溶出させ,生じたオプトード感応膜の吸光度変化により定量する紙ベースの新規IS定量用μPADを開発することを目的としている.まず,エピクロロヒドリンや水酸化ナトリウム含有アルギン酸ナトリウム,塩化カルシウムで改質を行ったろ紙にZph+を吸着させ予備濃縮後, 陽イオン性界面活性剤(CS)オプトード膜に対して濃縮したZph+を抽出することで生じたCSオプトードの吸光変化量により定量するμPADの開発を行った.その結果, 濃縮を行っていない場合には検出できなかった10μM程度のZph+を検出することに成功した.しかし、作製した陰イオン性界面活性剤(AS)μPADsにより100μM-1000μMの濃度範囲のASの定量が可能であったが,現段階ではASの予備濃縮が困難であった.今後, ろ紙に対してより多量の予備濃縮が可能となるような新しいろ紙の改質方法,経時変化によるオプトード膜の変色の影響について研究を行い,より短時間でより低濃度のISを検出できる方法の開発を行う予定である.
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