研究課題/領域番号 |
19K05551
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
山口 敏男 福岡大学, 理学部, 教授 (70158111)
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研究分担者 |
吉田 亨次 福岡大学, 理学部, 助教 (00309890)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エアロゾル液滴 / 液体構造 / X線散乱 / ラマン散乱 / EPSRモデリング / エアロゾル反応 / 結晶成長 / 結晶融解 |
研究実績の概要 |
超音波浮揚装置と連続液滴生成装置を組み合わせて、空気中に浮揚させた、30ミクロン~1㎜サイズの液滴のラマン散乱とシンクロトロンX線散乱 をin situで測定できる装置を開発した。また、相対湿度精密調整装置を購入して、液滴周りの湿度を変化させる試料チャンバーを製作した。1 mol/L 硝酸アンモニウム水溶液、1 mol/L 硝酸マグネシウム水溶液、1 mol/L 硫酸マグネシウム水溶液の各液滴の室温でのラマンスペクトル測定から、硝酸イオン中のN-O伸縮モード、硫酸イオン中のS-O伸縮モード、水中のO-H伸縮モードの面積比を求めた結果、液滴の溶質濃度はバルク溶液の値より数倍高いことを明らかにした。同じ液滴試料について、液滴サイズを200ミクロンから1㎜まで変化させて、シンクロトロンX線散乱測定に成功した。得られたX線構造因子を基に 二体ポテンシャルを改良したEPSRモデリング計算を行い、液滴のミクロ構造情報(原子間距離、配位数、水素結合クラスター)を決定し3次元構造を可視化した。液滴中では、硫酸イオンの周りに、S-H2O距離が0.38nmで8個の水分子が取り囲んでいる。マグネシウムイオンにはMg-H2O距離0.21nmで6個の水分子が結合している。硫酸マグネシウム水溶液液滴では過飽和になり、マグネシウムイオンと硫酸イオンのイオン対が生成している。また、液滴の周りの相対湿度を変化させたin situ X線散乱から、液滴からの結晶成長を観測することに成功した。また、各試料の粉末を浮揚させて、相対湿度を変化させることにより、結晶の融解過程をin situで観測した。本装置の構成と性能評価を2020年9月の分析化学会年会(名古屋)、2020年12月Pacifichem2020(ホノルル)、2020年10月の溶液化学シンポジウム(Web会議)で発表する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超音波浮揚装置と連続液滴生成装置を組み合わせて、空気中に浮揚させた液滴のラマン散乱とシンクロトロンX線散乱を測定できる装置を開発した。また、相対湿度精密調整装置を購入して、試料チャンバー内の液滴周りの相対湿度を変化させることにも成功した。当初の目的であるラマン散乱とX線散乱をin situ 同時測定は、SPring-8のX線ビームラインの実験ハッチ内に現在のラマン散乱装置を設置する空間がないためにできなかった。その代わりに、密閉チャンバー内で浮揚させた液滴のラマンスペクトルの強度とサイズの時間変化を測定した検量線を作成し、液滴のX線散乱実験での液滴サイズと時間経過を検量線を用いて液滴の濃度を正確に決定できることがわかった。in situ 同時測定には、光ファイバーを用いた簡易型ラマン散乱装置の設置も考えられるが、数十ミクロンサイズの液滴のラマン散乱強度がバルク試料に比べて弱いことから、ラマン散乱とX線散乱は個別に測定することで本研究の目的は達成される。X線散乱実験では、200ミクロンサイズ以下の液滴の散乱強度に対して空気散乱の強度が大きく、空気散乱をできるだけ小さくすることが必要であった。試料と検出器の間に極薄の鉛板からなる筒やビームラインで製作された真空槽を設置した結果、空気散乱の寄与を減じることができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度には、室温から210 Kまで測定可能な低温試料チャンバーを製作する。試料温度は液体窒素をヒーターで気化させた冷却乾燥窒素をヒーターと温度コントローラーで制御する。液滴の温度は、申請者が測定ずみのMCM-41細孔内の低温水のO-H伸縮バンドの温度依存性の検量線から決定する。20から数百ミクロンサイズの水、1 mol/L 塩化ナトリウム水溶液、1 mol/L 硝酸アンモニウム水溶液、1 mol/L硝酸マグネシウム水溶液、1 mol/L硫酸マグネシウム水溶液の液滴のラマンスペクトルとX線散乱を測定し、エアロゾル液滴の氷晶生成過程を観測する。得られたX線回折データを用いて、EPSRモデリングを行い、氷晶生成過程の3次元構造を可視化する。これらの結果から、高密度水―低密度水転移の有無を検証する。また、氷相の結晶系を同定する。昨年度の研究成果を専門雑誌に投稿する。 令和3年度には、雲凝結核として硫酸アンモニウムおよび塩化ナトリウムの微結晶を浮遊させて、試料チャンバー内の水蒸気を送り、室温から凍結 温度まで段階的に変化させながら、雲粒形成と成長過程を測定する。形成された雲粒のミクロ構造を可視化することにより、相転移(凝固)や 結晶化を分子レベルで解明する。研究成果を溶液化学シンポジウム・分析化学会年会と溶液化学国際会議(コロンビア)で発表し、専門雑誌に投稿する。 令和4年度には、雲凝結核としてアジピン酸微結晶を浮遊させて、試料チャンバー内の水蒸気を送り、室温から凍結温度まで段階的に変化させなが ら、雲粒形成と成長過程を測定する。また、オゾンと酸素の混合気体を試料チャンバーに注入してアジピン酸の酸化による二次有機エアロゾル の生成を確認し、液滴の相転移(凝固)や結晶化を分子レベルで解明する。研究成果を溶液化学シンポジウム・分析化学会年会で発表し、専門雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月にJ-PARC MLF中性子散乱実験に参加した学生の出張費に差額が発生した。2020年度の消耗品費に充当する。
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