研究課題/領域番号 |
19K05551
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
山口 敏男 福岡大学, 公私立大学の部局等, 研究特任教授 (70158111)
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研究分担者 |
吉田 亨次 福岡大学, 理学部, 准教授 (00309890)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エアロゾル液滴 / 液体構造 / X線散乱 / ラマン散乱 / 水和イオン / 超音波浮揚 / 水 / 過冷却 |
研究実績の概要 |
エアロゾル粒子は地球の大気中に遍在している。それらは雲凝結核(CCN)として機能し、雲の物理学と化学および降水量を変化させて、その結果、地球の気候に影響を与える。エアロゾルは、上方へ流れで水蒸気が冷却され、エアロゾルの周りに凝縮して水滴を形成し、続いて降雨する雲の形成に重要な役割を果たす。しかし、雲形成におけるエアロゾルの凝縮過程は、分子レベルで完全には理解されていない。今年度は、超低温冷蔵槽サーキュレーターを購入し、低温試料チャンバーを制作して性能試験を行った。その結果、空気中に浮揚させた液滴を233 Kまで冷却することに成功した。低温試料装置をSpring-8 BL08Wのその場X線回折装置に設置した。比較のために、直径0.3mmのガラスキャピラリーに密封されたバルク溶液も室温から243 Kまで測定した。試料は、1 mol/L硫酸アンモニウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、エチレングリコール-水(1:1)混合物、酢酸、およびコハク酸の水溶液である。バックグラウンドと空のキャピラリーも測定した。試料チャンバーと検出器の間に2つの真空チャンバーを設置することで、空気の散乱を最小限に抑えた。サンプル温度は、K型熱電対をサンプルチャンバーに挿入して測定した。液滴の濃度は、ラマン分光法によって推定した。エチレングリコール-水(1:1)混合液滴のX線散乱強度の温度変化から、水の四面体水素結合ネットワークが低温で徐々に強化されることを明らかにした。また、酢酸水溶液液滴では、酢酸分子が液滴表面付近に集合していることが明らかになった。現在、Empirical Potential Structure Refinement モデリングによりX線データを分析し、水滴およびバルク溶液の三次元構造に対する温度の影響を明らかにしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超低温冷却槽の購入と低温試料チャンバーの制作に成功したことにより、超音波浮揚装置により空気中に浮揚させた単一液滴の室温から凍結温度までのラマン散乱とin situ X線散乱に成功した。また、有機エアロゾルのモデルとして酢酸水溶液液滴を室温でラマン散乱とX線散乱を測定した結果、酢酸分子が液滴界面付近に集ますことを明らかにすることに成功した。この結果は、無機エアロゾル液滴の結果と異なることが明らかになった。酢酸分子は疎水性のメチル基と親水性のカルボキシル基からなる両親媒性分子であるために、気液界面では疎水性のメチル基が集合しやすくなるためと考えられる。また、エチレングリコール―水(1:1)混合溶液の液滴では室温から243 KまでのX線散乱測定に成功し、温度低下につれて水の四面体ネットワーク構造が発達する様子を観察できた。これらの結果は、成層圏でエアロゾル液滴が冷却されて雲核に水蒸気が付着しながら成長していく過程を再現できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、液滴サイズが1㎜程度の液滴を超音波浮揚装置で空気中に浮揚させることに成功した。また、浮揚させた液滴のラマン散乱測定から液滴の濃度を決定することに成功した。また、SPring-8 BL08Wにおいて空気中に浮揚させた液滴のin situ X線散乱測定にも成功した。さらに、超低温冷却槽サーキュレーターと冷温試料チャンバーにより、室温から233 kまで、空気中に浮揚させたラマン散乱とX線散乱測定を実現できた。また、無機エアロゾルと有機エアロゾル液滴の構造の違いを明らかにすることに成功した。これらの実績を踏まえて、最終年度には以下の課題を遂行する。(1)エアロゾル粒子のサイズは数ミクロンから数十ミクロンであり、1㎜サイズの液滴はエアロゾルモデルとした大きすぎるので、数十ミクロンサイズの液滴を浮揚させる装置を開発する。群馬大学の原野教授が開発された電気力学天秤を用いると空気中に浮揚させる液滴のサイズは数十ミクロンであるために、原野教授と共同でSPring-8 BL08Wに電気力学天秤を用いた試料チャンバーを制作して、数十ミクロンサイズの無機エアロゾルおよび有機エアロゾル液滴のX線散乱を測定する。ラマン散乱により液滴の濃度を決定し、さらにX線散乱データをEPSRモデリングで解析して、液滴の三次元構造のサイズ効果を明らかにする。また、大気中のエアロゾル液滴における化学反応を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究計画の予定どおりに使用した結果、端数が生じたものである。 この次年度使用額については、令和4年度の試薬やプリンタートナーなど消耗品を購入し、研究の進展のために充当する予定である。
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