研究課題/領域番号 |
19K05558
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
原 孝佳 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (60437358)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 層状イットリウム水酸化物 / 層間隔変化 / 昇温粉末X線回折 / 固体塩基触媒 / アニオン交換反応 / 固体ルイス酸触媒 / Michael付加反応 |
研究実績の概要 |
本申請研究は,アニオン交換性層状イットリウム水酸化物(Y-LRH)の特性に着目し,その触媒活性の向上を目指すものである.溶媒分子,特に水分子による層空間拡張効果を機軸とする反応空間制御を施し,その起源と機序を原子・分子レベルで解明するため様々な分光学的手法を駆使した構造解析を行う.これまで,大型放射光施設SPring-8にて時分解粉末X線回折実験を行った(BL02B2).層間内アニオンの交換反応をその場観測したところ,塩化物アニオンが酢酸アニオンに交換される過程においては,水中で生成する酢酸アニオンー水分子会合体が層間内へ数秒オーダーで迅速に取り込まれる様子が,層間隔の拡張という形で明らかとなった. 一方,Y-LRH基本層のY(III)カチオンは,水分子が配位した9配位構造を取ることがわかっている.合成したY-LRHを加熱処理することにより,脱水過程において,層間水と配位水の2種類の水分子の区別をつけることができた.このような脱離過程は,通常の熱分析(TG-DTA)でははっきりとは区別できないが,SPring-8にて昇温過程での放射光XRD測定を行うことで,層間隔の異なる2つの回折ピークが現れ,それぞれ層間隔の異なる層状構造となることが明らかとなった.例えば,塩化物イオン導入型Y-LRH触媒の昇温XRD測定の結果から,層間水脱離が380 K付近で,配位水脱離が420 K付近で起こることが示唆された.同様の実験を酢酸アニオン導入型Y-LRH(C2/Y-LRH)触媒にて行ったところ,層間水脱離が370 K付近で,配位水脱離が450 K付近で起こることがわかった.このことから,層間内アニオンの種類によって水分子の温度による脱離挙動に違いがあることを見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Y-LRHを構成する基本層から配位水が除去できたなら,基本層中の配位不飽和なY(III)はルイス酸点として機能するはずである.現段階で,Cl/Y-LRHを453 Kでの加熱処理した触媒存在下,n-hexane溶媒中にて配位性の強い1,3-ジエステルであるメチルマロン酸ジエチルを吸着プローブ分子に用い吸着させたところ, 加熱処理を施すことによってCl/Y-LRH触媒への吸着量(取り込み量)が増加することがわかった.このことから,Y-LRHを加熱処理することでマトリクス内に新たなルイス酸点を発現させることができたといえる.事実,1,3-ジエステルとメチルビニルケトンとのMichael付加反応が触媒的に進行することも明らかとなった.今後,ピリジン吸着FT-IRによるルイス酸点の定量を行うことで直接ルイス酸量を評価していく.
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究の進捗状況から,Y-LRHに適切なアニオンを導入することで,(1)過剰な水分子による層間隔の拡張機能(ジャッキアップ機能)が発現すること,(2)適切な温度での加熱処理による層間水あるいは配位水が除去された層構造が得られること,(3)配位水を除去したY-LRHマトリクス中には新たなルイス酸点が発現すること,が明らかとなった.今後は,得られた特異な層状構造の特性を駆使できるような触媒反応へ応用・展開する.例えば,新たに発現したルイス酸点によるエポキシド分子の活性化や,水酸化物層由来のブロンステッド塩基点と新たに発現したルイス酸点の協奏的な効果を狙った反応,さらに,水分子によるジャッキアップ効果により加速される水中での有機合成反応等に応用・展開する.
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次年度使用額が生じた理由 |
端数金額のため,次年度に合わせて使用する予定.
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