研究実績の概要 |
昨年度の研究において、フッ化カリウム(KF)と固体酸のカチオン交換反応により定量的に生成したフッ化水素(HF)に対して有機強塩基である1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene (DBU)、1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene (TBD)、さらに7-methyl-1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene (MTBD)を作用させることで、有機強塩基-3HF錯体が定量的に得られることを明らかにした。そこで、得られた有機強塩基-3HF錯体を用いてエポキシドの開環フッ素化やメシラートの求核的フッ素化を行ったところ、何れの場合も対応するフッ素化体が良好な収率で得られた。また、同じ有機強塩基-3HF錯体であっても、有機強塩基の分子内の水素結合ドナー(N-H結合)の有無によって、その反応性が大きく異なることが明らかになった。例えば、メシラートの求核的フッ素化において、水素結合ドナー(N-H結合)を有するTBD-3HF錯体を用いた場合には対応するフッ素化体の収率が65%であったのに対し、水素結合ドナー(N-H結合)を有さないMTBD-3HF錯体を用いた場合には対応するフッ素化体の収率が84%であった。これらのことから、有機強塩基-3HF錯体は何れも比較的高いフッ素化能(求核性)を有することが明らかになるとともに、有機強塩基の分子内の水素結合ドナー(N-H結合)の有無によってその反応性が変化することが明らかになった。これは、水素結合ドナー(N-H結合)がフッ化物イオンと水素結合を形成することで、フッ化物イオンの求核性が低下するためだと考えられる。
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