研究課題/領域番号 |
19K05572
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研究機関 | 静岡理工科大学 |
研究代表者 |
南齋 勉 静岡理工科大学, 理工学部, 准教授 (20563349)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アクティブマター / マランゴニ効果 / 非線形 / 非平衡 / 環境浄化 / ソノケミストリー / ソノルミネッセンス |
研究実績の概要 |
陽イオン界面活性剤を含む水溶液中において,この界面活性剤とイオン会合反応する溶質を含むニトロベンゼン油滴を滴下すると,自発的に油滴が走行する現象が見られる。この現象は油滴周囲の不均一な界面張力が引き起こす脱ぬれ効果とマランゴニ効果によって説明できると考えられる。これまで,運動性と溶媒物性の関係について検討してきた結果,油滴溶媒の極性の大きさが油滴の運動性に大きく影響することが分かってきた。これは,油滴内溶質が油水界面において解離状態となり,そのまま水相へ拡散すると,運動を阻害する「負の因子」となるが,極性の高い油滴溶媒を用いた場合,イオン化した溶質は再び油相内へと戻ることで,油滴運動のトリガーとなる,ガラス表面上に吸着した界面活性剤とのイオン会合反応を促進する「正の因子」となるためと考えられる。解離状態の油相溶質について,油水分配係数を算出することで上記の因子の影響について検討した。また,並行して回収後の汚染物質を効率的に分解するために,有機溶媒中に生成する高温高圧の化学反応場に対して,溶媒物性が与える影響について検討を行なった。液体に超音波を照射すると,数千度・数百気圧の高温高圧反応場が生成される。今回,超音波照射の対象溶媒として,直鎖アルカン,脂肪族アルコール,芳香族アルコール,芳香族炭化水素,酢酸エステルなど構造の異なる有機化合物30種類を選択し,生成物解析の他,ガス状炭化水素生成物の生成比から超音波キャビテーション温度を見積もる手法によって,高温状態の定量評価を行なった。その結果,溶媒の蒸気圧が大きくなるほど超音波キャビテーション温度は低下する結果が得られた。これらの結果から,環境汚染物質の回収システムとして,極性が高く,蒸気圧が低い溶媒が適していると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までの実験計画として,油滴溶媒の選択肢を広げるため,水より高比重の溶媒から,比重が小さい溶媒を用い,それらの物性について系統的に検討した結果,溶媒の極性が大きくなるほど運動性が高くなる結果が得られた。また,水相中に溶出した油滴中溶質(ブロモチモールブルー)の定量結果から,溶質の油水分配係数を算出したところ,イオン化した状態の溶質が水相ではなく,油相内に分配していることが運動を促進することが明らかとなった。このことから,極性が大きい油相溶媒の場合,イオン化した油相溶質が解離した状態のまま安定に存在できることが,界面活性剤分子とのイオン会合体反応の促進につながったと考えられる。ただし,ある一定の分配係数を超えると,界面活性剤との会合反応による界面脱離が,界面吸着を大きく上回ることで,油滴は脱濡れ状態のままになるため,運動性は低下する結果も見られた。つまり,油滴の運動性に対して,溶質の分配係数は最適となる値をとることが分かった。溶媒極性の大きさは,油相溶媒と水相の相互溶解を促すため,このことが運動性の向上につながる要因となることも考えたが,水相の油相溶質濃度と油滴運動性との間には,明確な相関は見られなかった。さらに,超音波化学反応場に関する検討について,蒸気圧が低い溶媒ほど分解効率が上がることが分かった。この要因を考えるうえでは,超音波反応場の形成が重要である。疎密波である超音波によって超音波キャビテーションと呼ばれる気泡が発生し,その気泡が臨界サイズまで成長すると,準断熱状態で圧縮崩壊する。蒸気圧が高い溶媒の場合,溶媒分子がキャビテーション内に揮発することで,キャビテーションバブル内の比熱比が低下し,断熱崩壊圧縮の際,キャビテーションの到達温度は低下する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,当初の計画通り「油相中に濃縮した界面活性剤の超音波分解」のための基礎的検討として,有機溶媒中に生成する超音波化学反応場の高温状態の評価を行なう。従来の超音波反応場に関する研究は水溶液系が多く、有機溶媒中での研究はほとんど報告されていない。これは溶媒自体が分解されることにより分解生成物が複雑化し、さらにその高濃度の生成物がキャビティに及ぼす影響が大きいためである。有機溶媒中の超音波キャビテーションの評価には,いくつかの手法が考えられるが,本研究では,極限状態の高温高圧反応場から発せられるソノルミネッセンスと呼ばれる発光現象に着目する。これまで検討を重ねてきた分解生成物の生成比に基づいた化学的な反応場の評価方法に加えて,ソノルミネッセンス発光強度を測定することによる物理化学的な超音波化学反応場の評価方法について検討を行なう。発光強度の測定系として,すでに浜松ホトニクス株式会社に協力を仰ぎ,最適な光電子増倍管を用いた系を作製し,予備的な測定結果は得られている。溶媒物性とソノルミネッセンス強度の関係を明らかにすることで,油滴溶媒の最適化を目指す。また,極性の大きな溶媒は,水相への相互溶解が問題となることから,本研究系の実用化を念頭に置いたシステムとして,極性が非常に高く,かつ水には不要な液体として「溶融塩(イオン液体)」を自発液滴システムとして応用する系を模索する。イオン液体はイオンであることから蒸気圧を持たないため,効果的な超音波分解溶媒としても期待できる。今年度は,基礎的検討として,ガラス基板上でのイオン液体の濡れ性,界面活性剤の有無による接触角変化,油滴内溶質の存在の有無の影響など,次年度につながる基盤形成を目的とした実験を行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により,予定していた国際会議(ゴードン会議(米国)とPacifichem(米国))が延期となったことから,旅費に計上していた予算が大きく繰り越しとなった。今年度も状況の改善が難しいことが予想されることから,消耗品費として支出していく。
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