有機溶媒中の超音波反応場は、溶媒自体の分解生成物が複雑であることや、その分解生成物のキャビテーションバブル(キャビティ)への影響が大きいことから解明の余地が大きい。我々のこれまでの研究から、各溶媒の分解生成物であるガス状炭化水素の生成量からメチルラジカル再結合(MRR)法を用いて見積もったキャビティ温度は溶媒によって異なり、溶媒自体の蒸気圧や生成物の蒸気圧、溶媒の粘度など、複数の支配要因があると考えられる。本研究では、有機溶媒中で生成する超音波反応場の高温状態の把握を目的として、対象溶媒である30種の有機化合物に超音波を照射した。高温高圧反応場の評価方法として、MRR法を用いたキャビティの平均温度の見積もりに加え、キャビティ圧壊時に放出される光(ソノルミネッセンス;SL)の強度を測定し、溶媒の蒸気圧や粘性などの物性がキャビティ平均温度とSL強度に及ぼす影響を検討した。今回、有機溶媒に直接超音波照射した結果から、MRR法によって見積もられたキャビティ平均温度は、溶媒の蒸気圧が小さいほど高温になることが見積もられ,SL強度との間に正の相関関係が見られた。 また,これまでの検討から,自走油滴の溶媒物性として,極性の大きさが運動性に寄与することが分かってきたが,極性の大きな溶媒は,水相への相互溶解が問題となることから,本研究系の実用化を念頭に置いたシステムとして,極性が非常に高く,かつ水には不要な液体として「常温溶融塩(イオン液体)」を自発液滴システムとして応用した系を作製した。この結果,ある組成のイオン液体において,自走現象が確認された。また,水相に含まれる界面活性剤の種類や炭素鎖長と,イオン液体組成の組み合わせによって,イオン液体のガラス基板の濡れ性が変化することが分かってきた。これら機構解明に向けて,引き続き検討を進めていく。
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