研究課題/領域番号 |
19K05574
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
赤司 治夫 岡山理科大学, フロンティア理工学研究所, 教授 (30221708)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酸化反応 / 金属錯体 / 触媒 / ポルフィリン / クロリン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,環境調和型の酸化反応を行うための新しい触媒を,金属錯体を利用して開発することを目標とした,新規機能性金属錯体の合成を行うことである.本研究で目指している環境調和型の酸化反応とは,(1)空気(または酸素)あるいは過酸化水素水を共酸化剤として用いて,(2)水を反応場とし,(3)触媒の回収・再利用が容易であること,などの特徴をもつ. 本研究では,ペンタフルオロフェニル基を導入したフッ素化ポルフィリンとその誘導体であるフッ素化クロリンを配位子としたさまざまな金属錯体を合成し,それらの錯体の酸化反応に対する触媒能を検討することを基本として,目標とする機能性をもった金属錯体の探索を行う.合成の進行とともに,合成した錯体が光増感能をもち,光照射により強い酸化力をもった一重項酸素を発生するものと,光増感能はもたないものの,酸化反応触媒としての機能性を有するもの2種類が存在することが明らかになってきた.それぞれの特性を生かした反応系の探索をおこなっている.例えば,フッ素化クロリンを配位子とするマグネシウム錯体にグルコースなどの糖を連結することにより,水溶性を付与した糖連結フッ素化クロリンマグネシウム錯体を用いた,ナフタレンジオールの光酸素化反応を,水/有機溶媒の二層系で行うことに成功し,その反応条件等の詳細を明らかにした. 新たな研究の展開を求めて,フッ素化ポルフィリンとフッ素化クロリンを配位子とするランタノイド系金属元素を含む金属錯体を合成し,その構造や性質に関する研究を行った.また新しい配位子として,フッ素化ポルフィリンのペンタフルオロフェニル基のパラ位にジメチルアミノ基を導入した配位子を合成した.また,ジメチルアミノ基を導入したフッ素化ポルフィリンを配位子とする銀錯体を合成することにも成功し,その構造と磁気的性質,および酸化還元挙動の関係に関する考察を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、当初の予定通りおおむね順調に進行している。糖連結フッ素化クロリンを配位子とするマグネシウム錯体は、高い水溶性を示し、その溶液は安定である。また光照射により、高効率で一重項酸素を発生する。この錯体は、ナフタレンジオールの光酸素化反応の触媒になる。以上の結果は、現在論文投稿の準備中である。 フッ素化クロリンを配位子とするコバルト錯体は、一重項酸素を発生する能力は有していないが、トリエチルシラン共存下でスチレンを対応するヒドロペルオキシドに変換する、スチレンの還元的酸素付加反応の触媒として機能することや、フッ素化クロリン鉄錯体が水素化ホウ素ナトリウムの共存下で、スチレンを酸化して、アルコールを生成す反応を触媒することなども明らかになっている。なおこの反応では、水に難溶なフッ素化クロリン鉄錯体を水系で使用して反応を行うために、錯体をシリカゲル上に担持して反応に用いることが有効な方法であることを発見している。すなわち、水を溶媒として、酸素雰囲気下で、水素化ホウ素ナトリウムの共存下、スチレンにシリカゲル上に担持したフッ素化クロリン鉄錯体を加えると、スチレンがアルコールに酸化される反応が起こる。このとき、錯体をシリカゲル上に担持したことで、錯体同士が接触する機会が減り、触媒の自己酸化反応が抑えられる。結果として、反応の収率が飛躍的に向上した。フッ素化クロリン鉄錯体については、単結晶を用いたX線結晶構造解析を行ってその結晶構造を決定した他、この錯体がソルバトクロミズムを示すことなどを明らかにしている。現在これらの実験は、触媒反応の反応条件の最適化を行う段階に入っており、適時研究成果を公開していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を実施するに当たり、我々が有している最大の強みは、フッ素化ポルフィリンおよびフッ素化クロリンとその誘導体を含む豊富な化合物群と、それらを配位子とするバラエティー豊かな金属錯体化合物のライブラリーを我々が有している点にある。このため、これらの配位子と金属錯体の新規合成については継続的に進めていく。 短期的には、先に述べた糖連結フッ素化クロリンマグネシウム錯体を触媒として利用したアフタレンジオールの光酸素化反応について、研究成果の公開をおこなう。その後、フッ素化クロリンコバルト錯体を用いたスチレンの還元的酸素付加反応や、フッ素クロリン鉄錯体のスチレンの酸化反応についても継続的に実験を重ねることで、研究成果をまとめていくことができると考えている。現在取り組んでいるオレフィンのエポキシ化反応についても、反応条件のカスタマイズを行っていく。 中長期的視点で考えると、これらの酸化反応にはそれぞれ長所とともに欠点もあり、本研究が目指している環境調和型の酸化反応の実現には至っていない。これらの問題を解決するブレークスルーを得るためには、光増感反応によって発生した一重項酸素の効率的利用を考えた反応系の構築すること、糖を連結した水溶性のフッ素化クロリン(またはポルフィリン)金属錯体触媒を利用した反応系を探索すること、触媒自身が酸化されて壊れてしまうことを防ぐ方策として、フッ素化クロリン鉄錯体の例にあるようなシリカゲルに担持した錯体を水系の反応場で用いる方法を工夫することなどが考えられる。
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