本研究では、セレン化合物を基本骨格(キーマテリアル)として取り上げ、その特異な機能と結合特性を活用した次世代高分子材料の創成を目的とした。セレンは炭素と同程度の電気陰性度をもち、さらに硫黄に比べて原子半径が大きく分極率が高い事から、ローレンツ・ローレンツの式において原子屈折が大きくなり高屈折率化が期待できる。新規セレン含有高屈折ポリマーの開発として、芳香族セレノフェンを側鎖に有するポリビニルセレノフェン及び汎用モノマーとの共重合体を合成した。RAFT重合により鎖長の揃ったポリビニルセレノフェンの合成も可能であった。薄膜の屈折率等を評価した結果、ビニルセレノフェンの単独重合体が比較的高い屈折率と高い透過性を示すことを見出した。また、セレノフェン含有量により共重合体の屈折率とアッベ数の制御が可能であることを明らかにした。さらに側鎖にビニル基を有するセレン含有共重合体のチオールーエン反応による光架橋硬化フィルムの作製にも成功した。一方、このセレンを有機ガラス(アクリルガラス)として知られているポリメチルメタクリレートの分子骨格に組み込むことで、高屈折率、高アッベ数を示し、凝集が起こらない光学用途に適した材料を開発した。高い透明性が期待できる3種類の(メタ)アクリレート型のセレン含有モノマー群の単独重合体及びメチルメタクリレートとの共重合体を合成し屈折率と透明性を評価した。その結果、光学材料として必須となる透明性や熱特性を損なうことなく屈折率向上とアッベ数の制御を達成する事ができた。 これらの結果から高屈折率材料としてのセレン含有ポリマーの有用性・可能性を実証した。さらに、基本骨格としてセレン化合物を活用した新規機能性高分子の設計指針・合成手法を確立すると共に、分子構造-材料特性の相関性を明らかにした。
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