研究実績の概要 |
本研究の目的は、高分子(ポリマー)のための精密結晶構造解析法として、粉末X線回折データと最大エントロピー法(MEM)を組み合わせた電子密度分布解析法を確立することである。主鎖を構成する元素の電子密度分布の広がりや偏りを数値化することにより、高分子の結晶格子(パラクリスタル格子)の特徴やそこに充填される分子鎖の螺旋構造の詳細を議論できる可能性がある。 2020年度は、2019年度に高密度ポリエチレン(HDPE)で確立した実験・データ解析法を他の線状高分子に応用できるか検討した。試料としてナイロン6を用い、ギ酸希薄溶液から単結晶を調製する方法で粉末試料(非晶を含む)を調製した。得られた粉末試料をキャピラリーに充填して、大型放射光施設SPring-8の構造生物学研究理研ビームラインⅡ (BL44B2、Debye-Scherrer camera搭載)を利用して粉末線回折測定を行った。ナイロン6の粉末回折強度プロファイルからバックグラウンドと非晶由来の散乱成分を差し引き、結晶由来のブラッグ反射に対して指数付けを行った後に、それらの強度をαとγ型の結晶多型由来の反射成分に分割した。834個のhkl反射の観測強度を用い、既知のα型結晶構造モデル[Holmes, D. R., Bunn, et al., Polym. Chem., 17(84), 159-177 (1955).]を初期モデルとして結晶構造の精密化を行った結果、R-factorが5.94 %の最適解を得た。hkl反射の観測構造因子と精密化後の構造モデルに対して求めた計算結晶構造因子とその位相角を用いてMEM解析を行なった。その結果、収束解としてR-factorが10.46 %のα型結晶構造の電子密度分布イメージを得ることに成功した。今後α型結晶構造における隣接分子鎖間の水素結合や分子鎖の規則配列の局所的な乱れについて検討する予定である。
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