研究課題
本研究の目的は、高分子(ポリマー)のための精密結晶構造解析法として、粉末X線回折データと最大エントロピー法(MEM)を組み合わせた電子密度分布解析法を確立することである。主鎖を構成する元素の電子密度分布の広がりや偏りを数値化することにより、高分子の結晶格子(パラクリスタル格子)の詳細を議論できる可能性がある。2021年度は、最も単純な1次構造を有する高密度ポリエチレン(HDPE)の粉末回折プロファイルを用いてこれまでのデータ解析法を再検討した。粉末回折強度プロファイルをピーク分離後直方晶系で指数付けした。得られたhkl反射の強度について補正を施し、観測強度Iobs(hkl)とした。低角側から(i)74個、(ii)118個、(iii) 237個の反射のIobs(hkl)と上記の格子定数を用いて、構造モデルの精密化を行った。精密化した結晶構造の結晶構造因子Fcal(hkl)の位相角Φcal(hkl)を使って、Iobs(hkl)から求めた観測構造因子Fobs(hkl)の実数項と虚数項を計算した。一連の反射のFobs(hkl)を用いてMEM解析を行い、それらの最適解として電子密度分布マップを得た。その結果、回折強度プロファイルの広角分解能を上げるよりも各反射強度の精度を上げることが、MEM解析には重要であることが分かった。差電子密度分布マップで電子密度分布の乱れを検討すると、分子鎖軸方向とab面内の分子鎖軸中心からa軸方向において電子密度分布の偏りや広がりが見られ、Hosemannプロットからも同様の乱れの傾向が見られた。MEM解析により、パラクリスタル格子乱れを電子密度分布で可視化できた可能性が示唆された
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Macromolecules
巻: 54 ページ: 8738-8750
10.1021/acs.macromol.1c01177