研究課題/領域番号 |
19K05583
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
安藤 剛 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (60324654)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 精密重合 / 重縮合 / アミノ酸 / 触媒 / ペプチド / ヒドロキシベンゾトリアゾール |
研究実績の概要 |
本研究では、一般に精密重合が困難であると言われている重縮合に対し、成長末端の活性化部位とモノマー捕捉部位の立場が互いに入れ替わる循環機構を持つ触媒を提案し、重縮合における新しい制御概念の実証を行う。これを達成するために、二分子の触媒を柔らかいスペーサーで連結した触媒を提案している。重合中、(1)ポリマー成長末端に結合した触媒が、(2)モノマーを捕捉し、(3)分子内縮合反応を行うことで、ポリマー-モノマー間のみの選択的成長を導く。 上記目的を達成するために、初年度に引き続き二官能性触媒の設計と合成を行い、更にL-プロリン(L-Pro)をモデルモノマーとして重合を検討した。過去の研究でL-Proの重縮合の実績のあるヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)触媒を骨格とし、2つのHOBtをリンカーで結合した分子の合成を行った。結合部位の電子的影響を小さくするためにベンゾトリアゾール環に炭素を介して結合させた分子の合成を試みたが、副反応のために収率は約2%と極めて低かった。これに対し、酸素を介した分子(オキシエトキシ鎖リンカー)では合成に成功した。 得られた二官能性触媒に重合開始基(=開始末端基)となるアセチル基を導入し、L-Proの重合を試みた。水中、4℃で24~96時間重合を行ったところ、少量のpoly(L-Pro)が得られた。生成したpoly(L-Pro)をGPCにより解析したところ、分子量は低いものの、分散が極めて狭いものが得られていた。二官能性触媒に対し、同じHOBt骨格からなる一官能性触媒を用いた従来の重縮合においては生成ポリマーの分子量分散度は大きく、二官能性触媒という特殊構造が重縮合制御に有効であることを示唆する結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
二年度はリンカーの触媒部位への結合点に用いる原子が異なる二種類の二官能性触媒の設計と合成を検討した。更にL-プロリン(L-Pro)をモデルモノマーとして重合を検討した。 触媒部位として、過去の研究でL-Proの重縮合触媒として実績のあるヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)骨格を選択し、これを2分子結合させるためのリンカーとして、ベンゾトリアゾール環への電子的影響を考慮しつつ、結合元素が炭素(-CH2OCH2CH2OCH2-)のものと結合元素が酸素(-OCH2CH2O-)の2種類を検討した。種々の条件を検討したが、結合元素が炭素のものは合成過程において多くの副生成物が生成し、収率が極めて低かった。一方、結合元素が酸素のものは、総収率46%と比較的良好な収率で二官能性触媒を得ることができた。 引き続いて、得られた触媒を用いてL-Proの重合を検討した。ポリマーの末端基となるアセチル基を二官能性触媒に導入し、縮合剤、L-Proモノマーを加え、水中、4℃で重合を行った。24~96時間の反応の後、少量のpoly(L-Pro)が得られた。生成ポリマーをGPCにより解析したところ、分子量は低い(<1,000)ものの、分子量分散の極めて狭い(<1.1)ポリマーが得られていた。これに対し、従来の一官能性の触媒を用いた重合では分子量分散度の広い(>2)ものが得られており、二官能性触媒という特殊構造が重縮合の精密制御を可能にしている事を示唆する結果が得られた。 このように、触媒設計、合成から重合の検討を行うところまでは順調に進んでいる。初期の重合検討では収率が低く、ある程度の想定の範囲内であるものの当初予定の種々のモノマーへの適用予定と比べると若干の遅れが見られる。今後リンカー部位の長さや重合条件の最適化を行い、ポリマーの高分子量化を行うとともに、適用可能なモノマー範囲を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
3年度は、2年度に合成を達成したHOBt型の二官能性触媒を用いて重合における重合条件の最適化を検討する。まず、poly(L-Pro)がより高収率で得られる条件を決定し、その後、種々重合時間を変更して時間に対するpoly(L-Pro)の分子量、分子量分散度の影響を調べる。さらに、得られたpoly(L-Pro)について、1H NMR、MALDI-TOF-MSなどを用いて、末端基の構造を詳細に解析し、本研究課題で提案する触媒的重合機構の有効性の実証を行う。 この重合触媒はリンカー部位の長さ、硬さも重要であると考えられるため、柔軟なオキシエチレン鎖で長さを変更したものも合成し、重合活性に与える影響も明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の影響により学会参加などの出張がなくなったため若干の未使用が生じた。次年度はオンラインによる学会参加の可能性を踏まえつつ、研究を加速させるために本予算を執行する予定である。
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