研究実績の概要 |
本研究では,Li塩とルイス塩基からなる溶媒和イオン液体存在下でのカチオン重合において,「成長カチオン種の直接安定化」による制御重合系の確立と立体制御の達成を目的としている.今年度は,植物由来モノマーであるtrans-アネトールの重合について検討を行った. trans-アネトールはp-メトキシスチレン誘導体であるが,β位のメチル基による立体障害のために明確な単独重合性を示さない.まず,LiNTf2と酢酸エチルからなる溶媒和イオン液体存在下,トルエン中でtrans-アネトールの熱カチオン重合を試みたがポリマーは得られなかった.そこで,-10℃に温度を下げてHNTf2を開始剤として加えると,定量的に重合が進行した.特に,ジイソプロピルエーテルをルイス塩基として用いると,数平均分子量が15,000を越える単独重合体が得られた.ただし,モノマー転化率が変化しても平均分子量に大きな違いが見られず,連鎖移動の併発が示唆された.MALDI-TOF MSスペクトルからβ-プロトン脱離が起こっていることがわかった. 溶媒をトルエンからCH2Cl2に変更すると,C2H2Cl4には140℃で溶解したが,トルエンやクロロホルムなどの一般的な有機溶媒には完全に溶解しないポリマーが得られた.同様の現象はこれまでにも報告されており,分岐構造の生成が主要因であると考えられている.そこで,C2D2Cl4中140℃で1H NMRを測定したが分岐構造の生成は確認されず,立体構造の変化が示唆された.さらに,DOSY測定によってトルエン中で合成したポリマーと同程度の分子量であることが確認されたことから,CH2Cl2中で合成したポリマーは規制された立体規則性を有することがわかった.具体的にどのような立体規則性ポリマーが得られたのか明確ではないが,重合温度を-40℃に下げるとさらに立体規則性が規制されることもわかった.
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