コロナ禍のため、当初計画から研究期間を1年延長した。これまでにAB型モノマーの連鎖縮合重合を金表面に作製した開始剤の自己組織化単分子膜を開始点として行うことでπ共役系ポリマーブラシの作製に成功している。本年度は重合機構に関するより詳細な知見を得るべく、種々のコントロール実験を行った。Au薄膜上に形成させた1-bromo-4-ethynylbenzeneの自己組織化単分子膜(Ini-SAM)をbis(tri-tert-butylphosphine)palladiumで処理することにより作製した開始剤基板を用いてAB型フルオレンモノマーの表面開始重合をTHFとNa2CO3水溶液の混合液中で行い、ポリマーブラシを作製した。基板を取り除いた後の溶液側のSEC測定では、ポリフルオレン(PFO)が確認でき、その分子量は4000であった。一方、ポリマーブラシ基板の金溶解後に回収したポリマーのSEC測定で求めた分子量は20000となり、表面開始重合で得られたものの方が高分子量であった。パラジウム化合物の触媒活性は極めて高いので、重合中に遊離した僅かなパラジウム化合物により重合が開始したものと考えられる。次に、Ini-SAMのない金基板を表面開始重合と同様の手順でモノマーと混合した。回収した基板の蛍光測定では、PFO由来の発光が観測されたものの、その強度はポリマーブラシ基板の300分の1以下と微弱であった。また、金溶解後のSEC測定では、ポリマー領域にピークは観測されなかった。これらの結果から、設計した表面開始機構によらずに金表面に強く吸着するPFO鎖があるものの、その量は極めて微量であり、PFOブラシを構成する大部分のPFO鎖(>99.67%)は、Pd化したIni-SAMを起点として生成したといえる。さらに、停止剤SAMを用いた表面停止重合についても種々のコントロール実験を行った。
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