研究課題/領域番号 |
19K05591
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
富永 昌英 徳島文理大学, 薬学部, 准教授 (60361507)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | インターロック化合物 / カテナン / 環状分子 / 自己集合 / 結晶構造 / 動的挙動 / 球状微粒子 |
研究実績の概要 |
本研究課題は新規インターロック化合物群の合成と、これらを基盤としたハードおよびソフトマテリアルを創製することである。本年度は、以下の項目を実施した。 (1)カテナンの生成機構を調査するために、ジクロロテトラジンの代わりに他の求電子試薬を用いて検討を行った。クロロフェノールをもつ二置換アダマンタンとジクロロピリダジンとの反応をDMSO中で行い、環状分子を収率57%で合成した。温度、濃度条件を検討したところ、カテナンは生成しなかった。ハロフェノールをもつ二置換アダマンタンとジブロモピラジンを用いて、逐次的な反応により環状分子を合成した。同様に、カテナンは得られなかった。以上の結果から、テトラジン環や反応溶媒がカテナン生成に重要であることが示された。また、環状分子の部分構造であるV、U、C型分子を合成し、NMR測定を行ったところ、C型分子と環状分子との間に擬ロタキサン構造を形成していた。極性溶媒を加えたところ、より強固な会合体が生成した。環状分子中のアダマンタン部位の疎溶媒効果・分散力が擬ロタキサン構造およびカテナン形成に寄与することが示唆された。 (2)アダマンタンとテトラジン環をもつカテナンを活用して、ゲスト包接結晶の作製を行った。カテナンをクロロホルムに溶かし、各種ゲスト分子を加え、共結晶化を行ったところ、多様な包接結晶を得た。トルエンのような芳香族分子は、テトラジン環とπ-π相互作用していることが分かり、カテナンが結晶中でホスト分子して有用であることが示された。 (3)ピラジンを有する環状化合物を様々なゲスト存在下で結晶化を行ったところ、包接結晶を得た。ジオキサンを包接した結晶では、ゲスト分子が環状分子の内部空間に取り込まれていた。さらに、ゲスト分子が分子間でCH…O相互作用により、一次元連鎖構造を形成し、会合体はポリロタキサン構造であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、(1、3)インターロック化合物の新規合成と、(2)カテナンを基盤とした結晶性材料の開発について検討を行った。(1)に関して、カテナンの生成には、テトラジン環や使用した反応溶媒が重要であることが分かった。また、ハロベンゼン部位のハロゲン原子もカテナン生成に寄与することが示唆された。環状分子とその部分構造であるC型分子が擬ロタキサン構造を形成することが示された。このような結果から得られた知見、すなわち環状骨格のアダマンタン部位の疎溶媒効果、分散力を新規カテナン、ロタキサンの合成に活用する予定である。(2)に関して、カテナンが結晶性材料のホスト分子として活用できることが明らかになった。2つの環状分子が垂直に配列しているため、結晶中では、カテナン間に空孔を有すること、電子欠乏性のテトラジン環を複数もつことから、芳香族分子の包接に有用であることが示唆された。ハロゲン原子をもつ揮発性汚染物質も同様にハロゲン-π相互作用を通じて包接できることが分かった。ガスや揮発性物質の吸着材、各種異性体の分離材料としての応用へと展開できる。(3)に関して、アダマンタン部位をもつ環状分子と、IARCによりグループ2Bに分類されているジオキサンの包接結晶を作製した。ゲスト分子は環内部に取り込まれており、この会合体が一次元状にポリロタキサン構造を形成していた。この構造体は、環状骨格のアダマンタンの分散力が重要であることが示唆された。 以上の結果は、昨年度の目標をおおむね達成していると考えられる。このような知見を利用して、本年度の新規インターロック化合物の合成と機能性材料の開発と機能開拓に向けて取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、新規インターロック化合物の開発に加え、多彩な分子集合体の作製とマクロレベルでの動的挙動変化による物性改変と新機能発現に取り組む。インターロック化合物を用いて、サイズや安定性の異なる中空球状集合体を作製する。外部刺激・環境(温度、溶媒、光、酸・塩基、ゲスト分子添加)に対応した膜厚・内部構造・形態変化や相転移などの動的挙動を調べる。すなわち、インターロック化合物の立体構造・化学特性の変化やゲスト分子との会合体形成を通じたミクロ情報が、球状微粒子のマクロ情報にどのように協同的に伝達・増幅されるか明らかにする。また、球状中空集合体からファイバー、シート、ネットワーク集合体やゲルなどの多次元ソフトマテリアルに拡張することを目指す。さらに、インターロック化合物を基盤とした分子性結晶・金属有機構造体(MOF)・共有結合性有機構造体(COF)などの多孔性物質の系に応用する。既にカテナンが包接結晶のホスト分子として有用であることを明らかにしたので、この結果に基づいて分子設計、材料開発に取り組む。中でも、本研究で合成したカテナンは脂肪族基と極性芳香環を含むため、カテナンの立体構造変化は分子全体の極性、テトラジン部位の二酸化炭素やハロゲン原子への親和性などの特性変化に通じる。この性質を活用して、以下の内容について研究を実施する。外部刺激による中空ナノ粒子の内部構造・形態変化を通じて、内包物質の放出を検討し、DDSの運搬体としての可能性を探る、ネットワーク集合体や多孔性材料の外部刺激による構造・形態変化を通じて、二酸化炭素、DDT・PCBなどの残留性有機汚染物質の吸着剤としての活用を調査する。
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