研究課題/領域番号 |
19K05594
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
武野 宏之 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (70302453)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コンポジットゲル / イオンゲル / アクチュエーター / 分子量 / バイオベースナノファイバー |
研究実績の概要 |
前年度の研究成果として、凍結融解法および、架橋剤である四ホウ酸ナトリウム(borax)を添加して作製したセルロースナノファイバー(CNF)/ポリビニルアルコール(PVA)コンポジットハイドロゲルが、延伸性と力学強度両方に優れていることを報告した。今年度は、作製プロセスの簡略化のために、凍結融解処理を行わずに、同程度、あるいはそれ以上の力学性能を有するコンポジットハイドロゲルが作製可能かどうかを検討した。そこで、異なる分子量をもつPVAを用いて、CNF/PVA/boraxハイドロゲルを作製し、その力学物性の分子量依存性を調査した。その結果、94,000(94K)から179,000(179K)へ、分子量を約2倍大きくしたPVAを用いたコンポジットハイドロゲルでは、凍結融解CNF/PVA94K/boraxハイドロゲルよりも、伸長度は低下するものの、約3倍ほど大きなヤング率を有する高強度なゲルの作製に成功した。一方、分子量を半分程度の44,000のPVAを用いると、コンポジットハイドロゲルの伸長強度、および伸長度は大きく低下することが分かった。本結果より、PVAの分子量は、本コンポジットゲルの力学性能を支配する重要な因子であることが確認された。 昨年度開発した高強度イオンゲルアクチュエーターに対して、種々の周波数で三角波の電圧を印加することにより、その変位応答性を調査した。印加電圧±2 Vのような低い電圧でも、0.005Hzの周波数で最大発生歪み0.58の値を得た。 CNF以外の新たなバイオベースナノファイバーゲル材料の創製のために、キトサンナノファイバーコンポジットハイドロゲルの開発に取り組んだ。無機微粒子とboraxを併用することで、高強度かつ高伸長ナノコンポジットゲルを作製することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点において、力学的特性に優れたセルロースナノファイバーコンポジットゲルの作製し、力学物性および、その構造を調査することにより、ゲルの力学物性と構造の相関関係を明らかにした。特に、架橋剤であるborax添加は、PVAやCNFへの架橋のみならず、ゲル構造の均一化にも寄与していることを放射光小角X線散乱法により明らかにした。また、ナノファイバーと高分子間の相互作用を調査し、本ゲルの優れた力学物性の原因が、複数の架橋による多重架橋効果であることを明らかにした。さらに、「研究実績の概要」で述べたように、高分子量ポリマーの使用がゲルの力学物性向上に重要な因子であることを明らかにした。高分子―クレイコンポジットゲル研究成果において得られた、ゲルの力学的タフネスを得るための3つのキーファクター、(1)フィラーの分散性、(2)高分子量ポリマーの使用、(3)フィラー‐高分子間の親和的相互作用が、ナノファイバーコンポジットゲルにおいても、同様に重要であることを確かめることができた。また、高強度な力学物性を有するバイオベースナノファイバーイオンゲルの開発にも成功し、そのイオンゲルアクチュエーターは安定した電気応答性を示している。さらに、CNF以外の高強度バイオベースナノファイバーコンポジットゲル材料の作製にも取り組み、ある程度の成果を収めている。コロナ禍の影響下においても、これらの結果が得られたという点において、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
CNF/PVAコンポジットハイドロゲルにおける力学的タフネスのメカニズムについては、概ね明らかにすることができた。しかしながら、イオン液体を溶媒に用いた高強度イオンゲルの優れた力学特性のメカニズムやイオンゲルの構造については、まだ解明されていない。そこで、今後の研究の方策として、イオンゲルの構造調査やナノファイバー‐高分子間の相互作用を調査することにより、イオンゲルの力学物性における高強度化メカニズムを解明する。また、イオンゲルアクチュエーターにおける電気駆動メカニズムの解明にも取り組むとともに、得られた知見に基づき、電圧印加に伴う変位やその応答速度の向上など、ゲルアクチュエーターの性能向上に取り組む。また、新たに開発したキトサンナノファイバーコンポジットゲルの構造調査や力学特性のメカニズム解明にも取り組む計画である。通常のキトサンゲルは、これまでの他の研究者の研究結果より、温度応答性を示すことが報告されている。しかしながら、それらのほとんどは、ゲルの力学強度が弱いという欠点をもつ。我々が開発したキトサンナノファイバーコンポジットゲルに対して、高強度特性かつ温度応答特性を備えたゲルの作製が可能かどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度予算において、12,687円の繰り越し額が生じていたため、当初の配分額900,000円より多くの支出を行ったが、若干の残額が生じた。
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