基板表面から薄膜が剥離する脱濡れ現象を空間的に制御することで、これまでに類のない高速物質移動に基づいたレリーフ形成システムを構築することを目的として、当該年度は、(1)光連結性表面基板の改良、(2)分子量変換材料の開発、(3)脱濡れを利用した表面レリーフ形成、の3つの課題の実施計画を設定し、研究を進めた。 (1)光連結性表面基板の改良の計画においては、これまで行ってきたガラス基板をシランカップリン剤溶液に浸漬する方法では再現性に難があることが見いだされ、浸漬法の代わりにスピンコート法を用いることで、再現良く単層的な吸着膜を創製できることを見いだした。 (2)分子量変換材料の開発の計画において、新たに一つの新規ビスアントラセンを合成し、薄膜中における光反応性を調査し、これまでに合成してきた一連のビスアントラセンと比較を行った。その結果、従来開発してきた高感度な光応答性を示すビスアントラセンと同様な光応答性を示しつつ、より安定な薄膜を形成しうるビスアントラセンの創製に成功した。 (3)脱濡れを利用した表面レリーフ形成の計画において、(1)で作製した光連結性表面基板上に分子量変換材料薄膜を作製し、パターン紫外光を照射することで、露光部においてのみ表面修飾された光連結性分子と分子量変換材料の間で光二量化に基づく共有結合が生じていることを確認した。次にこれらの試料を加熱することで脱濡れを誘起させた。その結果、パターン周期8-24μmにおいて、遮光部における脱濡れ現象により200-300 nm程の高低差を有する表面レリーフが形成されることを見いだした。
|