研究課題
強度や弾性率など繊維の諸物性は構造の影響を強く受け、繊維の製造条件によって顕著に変化する。本研究では、強度等の繊維物性に大きな影響をおよぼすと考えらえるフィブリル状構造の形成過程に注目し、SPring-8の超高輝度X線を使用して繊維をレーザー光で瞬間的に加熱して引き伸ばした後の構造変化を100マイクロ秒単位で観測した結果を元に合成繊維の力学物性を定量的に設計するためのモデル構築を目指した。本研究では、特にPET(ポリエチレンテレフタレート)に関してフィブリル状構造の量、長さ、乱れ、フィブリル内分子鎖面間隔の変化、フィブリルの配列構造の変化を解析することによって原料高分子や製造条件が構造形成におよぼす影響を調べた。この結果、フィブリル構造の母体となるsmectic構造の量と太さは分子量が大きいほど増え、逆にネック変形直後の面間隔は小さくなることがわかった。また分子量が大きな繊維ではsmectic構造の量が減少始めてから結晶化度が増加し始めるのに対し、低分子量では両者の形成が同時進行する傾向がみられた。これらの結果は、高分子量では延伸応力を支えるsmectic構造を経てミクロフィブリル構造が形成される過程が支配的なのに対し、低分子量では延伸応力あまり印可されていない部分での結晶も同時に成長することを意味する。前者の構造が繊維強度の向上をもたらし、後者の構造が熱収縮を抑制すると考えれば、延伸繊維の力学物性における分子量依存性を良く説明できる。また、得られたsmectic構造の面間隔変化から推定したみかけ弾性率は、延伸繊維の強度と同様、分子量が大きいほど大きくなるが、理論弾性率に外挿した場合の繊維強度は理論強度の約5%にしか達しなかった。ことのとは、ミクロフィブリル間を結びつける分子鎖の状態によって繊維の強度が決まることを意味する。
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Polymer
巻: 245 ページ: 124708~124708
10.1016/j.polymer.2022.124708