本研究は、低分子ゲル化剤が形成する低分子ゲルの物性を高分子化合物の添加によってコントロールすることを目的としている。本年度は、(1)新規低分子ゲル化剤の開発、(2)カルシウムイオンによる低分子ゲル生成時間の制御、および(3)ポリビニルアルコール(PVA)へのL-リシン型低分子ゲル化剤の導入について検討行った。(1)では、シュウ酸エチルエステルをN末端に持つL-リシン誘導体へ等モルのアミン化合物を室温んで混合することで、種々の溶媒を効率よくゲル化できる新規ゲル化剤の開発に成功した。加熱することなくすべて室温で合成が可能であり、収率も90%以上で得ることができた。(2)では、簡単に合成できるL-リシン誘導体水溶液へ、カルシウムイオンの添加によって低分子ゲルを生成できる新しい系を見出した。本系では、カルシウムイオンとL-リシン誘導体のモル比を変化させると、室温でのゲル化時間がある程度制御できることがわかった。DDSを含む医療系への応用が期待できる系である。(3)について、PVAへの低分子ゲル化剤の導入の結合様式として、エステル結合での導入法を見出いした。以前の研究でウレタン結合での導入では、PVAに導入したL-リシン誘導体と添加した低分子ゲル化剤の相互作用があまり見られなかったのに対して、エステル結合で導入することで、低分子ゲル化剤との相互作用ができるようなった。その結果、低分子ゲルの物性を制御できる可能性を見出した。しかし、合成時のロスが多く、より効率の良い導入方法を検討する必要性があることもわかった。
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