研究課題/領域番号 |
19K05608
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
玉井 聡行 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究部長 (50416335)
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研究分担者 |
渡辺 充 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 主任研究員 (70416337)
懸橋 理枝 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究室長 (70294874)
小畠 淳平 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 主任研究員 (00566424)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プラズマ処理 / 紫外光照射 / 高分子電解質多層 / 交互積層法 / 無電解めっき / ポリエチレンナフタレート / ポリエチレンテレフタレート |
研究実績の概要 |
ポリエチレンナフタレート(PEN)およびPETフィルム基材に対して、(1) 真空プラズマ処理による基材表面改質、(2) 交互積層による多層膜(表面修飾層)形成および膜表面への Pdナノ粒子触媒付与、(3) 無電解ニッケルめっきを経ることで、均一で密着性に優れた金属薄膜(めっき被膜)が形成され、フィルム基材/多層膜/金属薄膜の“積層構造体”が得られる。一方、基材の表面改質をUV/O3処理(大気中185, 254nm光照射)とした同様のめっきでは、金属薄膜の密着性は低く、“基材/多層膜界面”で剥離した。すなわち表面改質は、基材/多層膜界面の密着性発現に必要な一方で、不適切な条件では改質層の脆弱化に至る。 今年度は、改質過程と“表面改質層の特性”の関係について検討を行った。UV/O3処理による表面改質層の形成は、ATR-FT-IRによるC=O基由来のピークの微小変化で検出できる。そのUV/O3 処理後の基材表面を1M NaOHで洗浄した場合、ピーク形状は未処理のものと同じとなった。これらの変化は、改質表面での数百nm厚みの酸化分解物層の形成とその除去によると考えられる。またFE-SEM, AFMによる表面形状観察からも、UV/O3 処理による高分子鎖の酸化分解、ついでNaOH洗浄による改質層のエッチング(除去)が見出された。一方で、UV/O3 処理、NaOH洗浄の後、上記と同様のめっきを行った場合、その密着性は二次元的に不均一であった。ナノインデンターによる、NaOH洗浄後の基材表面の硬度評価でも、二次元的な均一性が低下した。以上より、UV/O3 処理により形成される脆弱な改質層の、NaOH洗浄による均一かつ完全な除去とそれによる密着性確保にはさらなる条件検討が必要であることが示された。尚、UV/O3 処理後に長時間プラズマ処理を行った場合、改質層は完全除去された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の通り今年度は主に、フィルム基材の表面改質・修飾を経た無電解めっきによる積層構造体形成において、基材表面改質層の特性解明を通じためっきの密着性向上に努めた。そこで、UV/O3処理による表面改質層は、酸化分解物で形成され、かつ比較的大きな厚みを持つため脆弱層となることが明らかとなったことから、本研究は概ね計画通り進行していると判断した。得られた知見から下記の今後の方向性が示された。 本研究の高分子表面の改質では、高分子鎖の酸化分解すなわち結合開裂による一次構造変化に加えて、二次、三次構造の変化も進行する。高分子鎖の光化学反応では、 “架橋反応”が進行することも明らかとなってきた(“分子量低下を伴う酸化分解反応”と“分子量増加を伴う架橋反応”は、高分子の特性に対して相反する影響を与える)。このような構造変化に伴い、改質表面にナノーメトルスケールでの形状変化が生じることも分かってきた。特徴的現象として、プラズマ処理されたPEN, PETフィルム表面に、ナノフィブリル構造が観察される。一方、UV/O3処理、および比較実験としてのフィルムのアルカリ加水分解や加熱処理では、同様のナノ構造は生じなかった。よって、これらの“改質表面のナノ構造”と界面での密着性の関係解明が今後必要であるとの結論に至った。 表面改質の手法として、プラズマ種の検討(酸素他)、紫外光照射条件(波長、雰囲気)の検討にも取り組んだ。また、多層膜の積層条件および、Pdナノ粒子の形成およびそのナノ構造解析や触媒能向上についても検討を行ってきている。これらの検討を通じためっきの密着性向上に今後取り組む。 以上本年度は、表面改質層の特性解明が、基材/多層膜界面での密着性発現に重要であることを明らかとした。これらの研究成果に関しては、学会発表を行い、また解説論文を2報執筆した(既報1,審査中1)。
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今後の研究の推進方策 |
上記の無電解めっきによる積層構造体形成とそこでの界面・表面の構造制御についての検討を、これまでの成果も踏まえさらに進める。加えて以下の2項目の検討を行うことで、積層構造体の二つの“層間界面”、すなわち“基材表面改質層/多層膜界面” および“多層膜/金属界面”、それぞれのナノスケール構造制御を行い、それによるめっき被膜の特性向上を目指す。 フィルム基材および交互積層多層膜が形成する界面の近傍層における数百nm厚み部分の構造解明: 改質層・修飾層の最表面の構造については概ね明らかとなってきた。一方で、層間界面での密着性、あるいは修飾層におけるPdナノ粒子の触媒能に関しては、改質層・修飾層の内部構造も重要と考えている。改質層・修飾層の最表面構造の物理・化学的ナノスケール構造評価については、走査電子顕微鏡(SEM, FE-SEM)・原子間力顕微鏡(AFM)等による表面形状観測、およびX線光電子分光(XPS) による組成比分析などにより明らかとする。比較的分析深度(厚み)が大きいと考えられる、ナノインデンターによる表面硬度評価、全反射赤外(ATR-FT-IR)分光分析(購入機器)による化学構造分析等の結果も加えた、多角的な解析により”界面近傍層の構造”を明らかとする。特にナノインデンターは垂直方向にある程度の分解能が期待できるので、修飾層の最表面から内部に至る数百nm厚み部分の構造に関する情報が得られると考えている。また上記の通り、高分子鎖の反応過程の解析に加えて、高分子の結晶化度など二次、三次構造の変化にも注目し検討を行う。 紫外光照射条件(波長、雰囲気)の最適化: 紫外光照射による表面改質は、その簡便な操作や二次元パターン形成などの点で優位性を持つが、上記の通り酸化分解反応の制御が課題となっている。そのため酸素濃度等、照射雰囲気の最適化により、酸素活性種の発生を制御することに取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験用の装置・機器に目立った経年劣化やトラブルがなく、想定していた部品交換等の必要がなかったため。また社会情勢により、予定していた出張や学会が中止となったため。次年度は、消耗品類、小型機器の購入および、現在動作が不安定なPCの更新などに使用する予定である。
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