研究課題/領域番号 |
19K05612
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
三輪 洋平 岐阜大学, 工学部, 准教授 (10635692)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エラストマー / 自己修復 / アイオノマー / イオン / 結晶 / ポリイソプレン |
研究実績の概要 |
我々はシス体がリッチなポリイソプレン(PI)の主鎖のランダムな位置にカルボキシ基を導入し、それらを部分的にナトリウムで中和したイオン性エラストマーを開発した。このエラストマーは、極めて単純な分子構造を有するにもかかわらず、力学的に強く、また、室温で自発的な自己修復性をしめす。一方で、このエラストマーの力学強度と自己修復特性は二律背反であり、残念ながら、このポリマーの分子構造をいかに最適化したとしても、材料の力学的な強さと自己修復速度の向上を両立できないことが、これまでの研究からわかっている。 そこで、この課題を解決すべく、新たな材料設計に取り組んだ。具体的には、実質的に非晶性であるシス体のPIをベースとしたイオン性エラストマーに対して、半結晶性であるトランス体のPIをベースとしたイオン性エラストマーを補強材として少量ブレンドする検討をおこなった。半結晶性のトランス体PI成分をブレンドすることで、結晶成分が材料を補強する結果、エラストマーの弾性率が大きく増加した。一方で、トランス体PI成分を約20wt%以下の割合でブレンドした場合には、トランス体PI成分が自己修復をほとんど阻害しないことがわかった。すなわち、従来のイオン性エラストマーと比べて、はるかに力学的に強いにもかかわらず、自己修復速度に遜色のない材料を設計することに成功した。 この材料の自己修復メカニズムを詳細に解析したところ、トランス体PI成分を約20wt%以下の割合でブレンドした場合には、形成される結晶の秩序性が低いことがわかった。この秩序性の低い結晶成分は、材料を補強する一方で、試料の切断にともなうせん断応力によって融解し、さらに、室温での再形成には時間がかかることがわかった。すなわち、切断直後の切断面では結晶成分が融解した状態であるために、材料の自己修復が阻害されないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していたよりも速いペースで、イオン性エラストマーの力学強度と自己修復性の両立に成功し、さらに、成果の論文発表についても完了したため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、ポリイソプレンをベースにしたイオン性エラストマーの構造と力学物性、さらに、自己修復特性に対する分子量、カルボキシ基付加量、中和度の影響などを明らかにしてきた。このエラストマーでは、カルボキシ基を中和する金属カチオン種をナトリウムから他のカチオン種へと変えることで、さらにその特性を幅広くチューニングできることが期待される。そこで、次年度は、カルボキシ基を中和する金属カチオン種の違いがエラストマーの構造と物性に与える影響を明らかにする。 既往の中和カチオン種であるナトリウムと同じアルカリ金属を用いて中和した試料の研究には、すでに着手している。イオン半径の小さなアルカリ金属で中和した場合には、イオン基の間に働く双極子-双極子相互作用の増加にともなう、架橋ネットワークの強化が予想される一方で、実験的には逆の結果が得られている。このメカニズムを解明することで、材料設計に関する新たな知見を獲得することを目指す。さらに、価数の異なる金属カチオン種で中和したエラストマーの性能についても評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会がWeb開催となったために、旅費の使用額が少なかったために差額が生じた。一方で、予定よりも消耗品費が多く必要となる見込みであることから、差額は消耗品費として使用する予定である。
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