研究課題
近年、我々はポリイソプレン(PI)の主鎖のランダムな位置にカルボキシ基を導入し、それらをナトリウムカチオンによって中和することでイオン化したイオン性PIを開発した。このイオン性PIでは、イオン基どうしがPIマトリックス中で凝集することでネットワーク構造が形成される。そのため、このイオン性PIは伸張性と弾力に富んだエラストマー材料として利用することができる。特筆すべきこととして、このエラストマー材料は、仮にナイフなど切断したとしても、室温で損傷部が自己修復する。これは、イオン基どうしの凝集がPIの分子運動を完全に束縛できるほど強いものではないために、室温においてすら、適当な頻度でネットワーク構造の自発的な組み換えが起こることに由来する。さらに、このイオン性PIは優れた力学特性、特に極めて高い靭性をしめす。一方で、この強靭化のメカニズムは不明であった。そこで、我々は、力学測定と時間分解X線散乱の同時測定によって、この問題に取り組んだ。その結果、試料の伸長過程において、イオン凝集体が大きく変形する様子とともに、イオン凝集体サイズの低下が観察された。この挙動は、試料が大きな応力をしめす場合ほど顕著に観察された。このイオン凝集体のサイズ低下は、伸長下においてイオン基が凝集体から脱離することをしめしている。一般的にエラストマーを伸長した場合、ネットワーク構造が不均一であるために、すべての架橋点に対して均等な負荷が掛かるわけではなく、ある特定の架橋点に過剰な負荷が掛かり、これが試料の破断の原因となる。一方で、イオン性PIでは、ある架橋点に過剰な負荷が掛かった場合には、該当するイオン基の自発的な凝集体からの脱離が起こることがわかった。このメカニズムは、局所的な負荷の分散に寄与し、このために、イオン性PIは高い靭性をしめすと考えられる。
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材料
巻: 未定 ページ: 未定
Sensors and Actuators A: Physical
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