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2019 年度 実施状況報告書

光誘起脆性-延性転移を利用した透明アクリルガラスの高靱性化

研究課題

研究課題/領域番号 19K05613
研究機関名古屋工業大学

研究代表者

信川 省吾  名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50609211)

研究分担者 林 幹大  名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70792654)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードポリメタクリル酸メチル / 引張強度 / 脆性―延性転移 / アゾベンゼン / 光異性化 / ガラス転移 / 誘電緩和
研究実績の概要

本研究課題では、アゾベンゼンの光異性化を利用して、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)の脆性を改善することを目的としている。
PMMAは室温の弾性率が3 GPaであり、ガラス状高分子の中では高いものに分類されるが、一方で5~10%のひずみで破断し、脆い(脆性)という欠点がある。一方、ポリカーボネート(PC)は100%以上のひずみでも破壊せず、延性を示す。詳細には解明されていないが、この機械強度の差は、高分子鎖の局所運動性や屈曲性の違いだと考えられている。具体的には、PCは局所運動性が高く、室温での自由体積が大きいが、PMMAは局所運動性が低く、自由体積が小さい。
アゾベンゼンは紫外光照射によりtrans-cis異性化を起こすことが知られている。PMMAにアゾベンゼンを添加すると、光異性化により数GPaの膨張力が発生することが報告されている。本研究では、この膨張力がPMMA鎖周りの自由体積を増加させ、局所運動性を変化させれば、脆性が改善すると考え、実験を行った。2019年度は、紫外光時間や強度を変化させ、アゾベンゼン添加PMMAの引張強度の変化について検討した。その結果、照射時間3分以上、強度100 mW/cm2以上の場合、PMMAの脆性が延性に転移することが判明した。また、室温から80℃の範囲で引張特性を調べたところ、弱い強度(40 mW/cm2)であっても、脆性-延性転移温度が20℃ほど低下することも判明した。また、紫外光を照射しながら誘電緩和測定を行い、系のガラス転移温度を調査したところ、紫外光照射により最大で15℃低下しており、PMMAのセグメント運動が加速していることも示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初の目的通り、2019年度の研究で、光照射によるアゾベンゼン添加PMMAの引張強度の向上が達成された。具体的には、100 mW/cm2以上の紫外光照射により、PMMAのガラス転移温度が低下し、室温における引張特性が脆性から延性へと転移することを確認した。また、100 mW/cm2以下の強度であっても、脆性―延性転移温度は20℃ほど低下しており、引張特性が向上することが判明している。さらに、種々の温度での誘電緩和測定、赤外分光測定を行った結果、紫外光照射によるアゾベンゼンのtrans-cis異性化がPMMAの側鎖の運動性を高めた結果、脆性から延性に変化したことが示唆された。以上のことから、一年目(2019年度)の研究成果は予定通り達成されたと考えられる。

今後の研究の推進方策

上記で述べたように、2019年度は紫外光照射によるアゾベンゼン添加PMMAの脆性-延性転移の確認を行い、さらに引張試験、誘電緩和測定、赤外分光測定によるメカニズムの解明にも着手し、前述のような研究成果を得ている。2020年度は、熱機械分析や陽電子消滅寿命測定などにより、膨張現象や自由体積の評価を行い、脆性-延性転移のメカニズム解明を引き続き行う。また、アゾベンゼンを側鎖に導入したPMMAを合成し、添加系と同様に脆性-延性転移の確認、分子運動性や自由体積などの評価を行い、アゾベンゼン導入法が引張特性に与える影響を調査する。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2019

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Effect of molecular size on the correlated dynamics of low-mass molecule and local chain motion in antiplasticized polycarbonate2019

    • 著者名/発表者名
      M. Maeda, S. Nobukawa, K. Inomata, M. Yamaguchi
    • 雑誌名

      Nihon Reoroji Gakkaishi

      巻: 47 ページ: 111-117

    • DOI

      10.1678/rheology.47.111

    • 査読あり
  • [学会発表] 外部刺激により光学特性が可逆的に変化する高分子材料2019

    • 著者名/発表者名
      信川省吾
    • 学会等名
      第28回ポリマー材料フォーラム
    • 招待講演
  • [学会発表] <高分子光学材料の設計・開発のための>偏光・複屈折の基礎と制御方法2019

    • 著者名/発表者名
      信川省吾
    • 学会等名
      サイエンス&テクノロジーセミナー
    • 招待講演
  • [学会発表] 高分子フィルムの複屈折と応力測定2019

    • 著者名/発表者名
      信川省吾
    • 学会等名
      技術情報協会セミナー
    • 招待講演
  • [学会発表] 光異性化を利用した脆性高分子の靱性向上と分子運動性の関係2019

    • 著者名/発表者名
      信川省吾,鷲見拓哉,猪股克弘
    • 学会等名
      第67回レオロジー討論会
  • [学会発表] 分子配向による脆性高分子ガラスの高靱性化2019

    • 著者名/発表者名
      信川省吾,澤井萌乃,猪股克弘
    • 学会等名
      第68回高分子討論会
  • [学会発表] 光異性化により誘起されるガラス状高分子の脆性-延性転移2019

    • 著者名/発表者名
      信川省吾,鷲見拓哉,猪股克弘
    • 学会等名
      プラスチック成形加工学会第30回年次大会
  • [学会発表] アゾベンゼン添加高分子フィルムの配向複屈折に対する光異性化の影響2019

    • 著者名/発表者名
      信川省吾,石本達紀,猪股克弘
    • 学会等名
      高分子学会第68回年次大会
  • [学会発表] 光異性化により誘起されるガラス状高分子の脆性-延性転移2019

    • 著者名/発表者名
      信川省吾,鷲見拓哉,猪股克弘
    • 学会等名
      レオロジー学会第46年会
  • [図書] 透明高分子材料の高屈折率化と屈折率制御2019

    • 著者名/発表者名
      信川省吾
    • 総ページ数
      205
    • 出版者
      シーエムシー出版
    • ISBN
      978-4-7813-1483-9

URL: 

公開日: 2021-01-27  

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