研究課題/領域番号 |
19K05616
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
井澤 浩則 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (50643235)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リンクル / スキン層 / ポリイオンコンプレックス / キトサン / カラギーナン |
研究実績の概要 |
キトサン(CS)フィルムをポリアクリル酸ナトリウム(PAA)(分子量6万、25万、200万)又はポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)(分子量7万、20万、100万)水溶液に浸漬、洗浄後、乾燥することでリンクルフィルムとした。分子量6万のPAA及び7万のPSSでは、共に約0.15 umのリンクルの生成が確認された。また、分子量の増加に伴い、リンクル幅が長くなること、並びに、同程度の分子量のPAAとPSSではリンクル幅に大きな差がないことも分かった。得られたリンクルフィルムの断面をSEMで観察しPICスキン層の厚みの比較を行った。その結果、分子量に関わらず、PICスキン層の厚みは約0.5 umだった。このことから、リンクル幅の変化は弾性率の違いによると示唆された。スキン層の弾性率に関する知見を得るために、PICスキン層を模倣したPICフィルムを用いて引張試験を行った。引張試験で得られたCSフィルム及びPICフィルムの弾性率(ヤング率)は、ほとんど同じ値であった。そこで、より詳細な弾性率が測定できる動的粘弾性(DMA)測定を行った。分子量6万のPAAを用いたPICフィルムの貯蔵弾性率はCSフィルムと同程度であったが、損失弾性率がCSフィルムより1.7倍高いことがわかった。このことから、PICスキン層と基板の損失弾性率のわずかな違いによってリンクルが誘起されることが示唆された。 階層的な微細構造の形成が観察されたカラギーナンを用いて浸漬温度、カラギーナン濃度、洗浄温度、乾燥温度を網羅的に検討してリンクルフィルムを調製した結果、カラギーナン層の厚みのみが微細構造表面の形態に大きく影響することが示唆された。また、カラギーナン単独のフィルムでも微細構造が見られたことから、カラギーナン層とPIC層が、乾燥により協奏的に自己組織化することで階層的な微細構造表面が生成することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに以下の内容を実施し、スキン層に関する新たな知見が得られた。 1)リンクルサイズ(幅と高さ)とPICスキン層の特性(弾性率と厚み)との相関関係の解明を目的に、異なる分子量のPAAとPSSを用いてリンクルフィルムを調製した。さらに、得られたリンクルのサイズとスキン層の厚みの測定を実施した。また、PICスキン層の弾性率の推定には、PICフィルムのDMA測定が有効であることを見出し、さらに、PICスキン層と基板のわずかな損失弾性率の違いだけでリンクルが誘起されるという新しい知見を得た。 2)カラギーナンを用いて網羅的条件検討を行うことで、階層化が起きる条件のスクリーニングを実施した。その知見から、カラギーナン層とPIC層から成る階層的スキン層が、協奏的に自己組織化することで階層的な微細構造表面が誘起されるというメカニズムの仮説が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
PICスキン層の弾性率の推定には、PICフィルムのDMA測定が有効であることが分かったので、異なる分子量のPAA(分子量6万、25万、200万)とPSS(分子量7万、20万、100万)を用いてPICフィルムを調製し、リンクルサイズと弾性率の関連性を網羅的に収集する。その知見から、リンクルサイズとスキン層の弾性率の関連性を解明する。また、PICスキン層の脱水縮合反応によるリンクルサイズの制御も実施する。 カラギーナン層の厚みは、洗浄条件で制御できる。そこで、洗浄の時間、温度、方法を検討することで、カラギーナン層の厚みを制御する。得られる微細構造の形態とカラギーナン層の厚みの関係を詳細に検討し、その知見から階層的スキン層が得られるメカニズムを考察する。 フィルムを炭化することで、様々な分野に応用が期待できる微細構造カーボンフィルムが得られると期待できることから、リンクルフィルムの炭化を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していたアメリカ化学会(ACS Spring 2020)が新型コロナウイルスの影響で中止になった。また、消耗品費を当初の予算よりも節約できた。残金を利用して真空ガス置換電気炉を購入し、フィルムの応用研究として炭化を新たに計画に加える。
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