前年度の結果において、ポリイオンコンプレックス(PIC)スキン層の硬さがリンクルサイズに関与していることが示唆されたことから、超微小硬度計を用いてPICスキン層の表面硬さを評価した。同様な分子量のポリアクリル酸(PA)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、リグニンスルホン酸(LS)、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸を用いて調製したPIC層を有するフィルム及びキトサンフィルムの負荷-除負荷曲線から、Martens硬さを算出した。その結果、0.1 um程度の小さなリンクルが生成するPAやPSSでは、CSとの差はわずかであり、10 um程度の大きなリンクルが生成するLSでは、CSよりも約3倍高い値であった。また、Martens硬さが大きくなるにつれて、リンクルサイズも大きくなったことから、本系におけるリンクルのサイズは、PIC層の弾性率や弾性率に相関して変化する収縮率などの性質によって支配されていることが分かった。 また、これまでにκ-及びι-カラギーナン(CG)を用いて適切な条件でPIC層を調製すると、それぞれ、階層的なリンクル及びバンプスが生成することを明らかにしてきた。本年度は、それらの生成メカニズムについて研究を行った。フィルムの断面観察から、κ-及びι-CGを用いるとCG層とPIC層から成る二重スキン層が生成することが分かった。各層の硬さと収縮率、浸漬及び洗浄操作後のフィルム表面の顕微鏡観察を実施した結果、κ-CGでは、κ-CG層とCSフィルムの収縮率の違いによってリンクルが誘起され、その上にκ-CG層の乾燥凝集によって小さなリンクルが生成することが強く示唆された。一方、ι-CGでは、ι-CG水溶液にCSフィルムを浸漬する段階で大きなバンプス構造が生成し、洗浄後のフィルムを乾燥するとι-CG層の乾燥凝集によってその上に小さなバンプス構造が生成することが明らかになった。
|