本研究課題では,分離膜を指向した光触媒能を有する窒化炭素系高分子ナノシートの作製を目指し,最終年度においては①窒化炭素類のナノシート化と製膜性の評価,②ヘプタジン誘導体へのマイケル付加反応を用いた化学修飾を試みた. ①に関しては,窒化炭素類として新たにアニオン性のポリヘプタジンイミド(PHI)を用いた.PHIは窒化炭素と同じくヘプタジン環を構成ユニットとして有し,窒化炭素よりも水への分散性が高く,光触媒能も高い機能を有しているが,プロトン化窒化炭素同様,製膜性が低かった.そこで,水熱処理によるナノ化を試み,PHI溶液を吸引ろ過で製膜したところ,酸化グラフェンと同程度の光沢のある薄膜が形成可能であり,PHIのナノシート化が成功したと考えられる.現在,静電相互作用による薄膜の安定化を目指し,適切なカチオンを選択中である. ②に関しては,昨年度まで実施してきた求核反応以外にマイケル付加反応での導入を新たに試みた.メレムと反応させるアクリレート類として,シリコーン系分子とエチレングリコール系分子を用いた.マイケル付加反応では,エチレングリコール系アクリレートでは想定外の反応を見出すことができたものの,いずれの分子を用いても目的としたマイケル付加反応ではなく,ヘプタジン誘導体やメラミンとアクリレートがほぼ反応していないことが確認された.エチレングリコール系分子では,ヘプタジン誘導体や触媒として利用した無機塩などが分子間相互作用を起こし,十分にマイケル付加反応が進まなかったことが示唆された.これ以外に,芳香族アルデヒドとヒドラジノヘプタジンを用いたイミンカップリングも試み,オリゴマーレベルの不溶性分子が合成できたことを確認した.これらを踏まえ,目標とする構造体の構築にはヘプタジン誘導体の溶解度を向上させることが重要であり,溶解性の高い誘導体からの構造体構築を実施する予定である.
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