研究課題/領域番号 |
19K05621
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
有光 晃二 東京理科大学, 理工学部先端化学科, 教授 (30293054)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酸触媒 / 塩基触媒 / 超強酸 / エポキシ樹脂 / カチオン重合 / UV硬化 / 増殖反応 / 自己触媒 |
研究実績の概要 |
初年度は、連鎖的に酸触媒または塩基触媒を発生するような新規な有機化学反応(酸増殖反応または塩基増殖反応)を探索し、その溶液中での分解挙動を調べることを目的とした。これまでにp-トルエンスルホン酸などの有機酸を連鎖的に発生する有機化合物は知られているが、さらに強い酸、たとえば超強酸を連鎖的に生成する有機化学反応は知られていない。まずは、このような反応挙動が期待できる化合物の設計・合成が重要であり、学術的なオリジナリティーは極めて高い。 そして、超強酸を増殖する化合物の利用価値であるが、エポキシ樹脂のカチオン重合はp-トルエンスルホン酸では進行しないので、この種の酸をエポキシ樹脂中で増殖させても硬化促進は見られないが、超強酸の増殖が可能であれば、エポキシ樹脂の飛躍的な硬化促進が期待できる。近年、光酸発生剤とエポキシ樹脂からなるカチオンUV硬化材料が産業界で利用されているが、光が浸透する部分は硬化するが、光が当たらない影部分は硬化しないことが問題となっている。光化学的に発生した酸をトリガーとして、エポキシ樹脂中で超強酸を連続的に発生させられれば、光をトリガーとした影部分の硬化が可能なり、実用的にもその価値は極めて大きい。 まず、酸触媒の作用で分解し、その分解の過程で超強酸を生成する化合物を設計し、実際に合成を試みた。その結果、目的化合物を適度な収率で合成することができた。この化合物を用いて実際に溶液中で分解させ、どのような分解挙動を示すのか1H-NMRスペクトルを用いて調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
連鎖的に超強酸を発生することが期待できる化合物を設計した。3-クロロプロピオフェノンを出発原料として、4ステップで酸増殖反応が期待できる酸分解性ケタール型スルホニウム塩AA-X(X-は対アニオン;PF6-またはSbF6-)を全収率55%(AA1-PF6)および全収率27%(AA1-SbF6)で合成した。 次に、酸増殖剤AA-PF6を70 mmol/L, p-トルエンスルホン酸(TsOH)を0または7 mmol/L含む重アセトニトリル溶液を調製した。これをNMRチューブに封入し100℃で加熱したときの1H-NMRスペクトルにおける分解生成物のピーク生成を追跡した。その結果、あらかじめ酸を添加して加熱した系では、酸増殖剤AA-PF6は速やかに分解し、酸を添加せず加熱した系では、AA-PF6は、一定の誘導期間の後に急激に分解した。これらの結果は、系中の微量の酸をトリガーとする自己触媒的な分解が進行したことを示しており、今回、設計・合成したAA-PF6が酸増殖剤として機能することを示している。
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今後の研究の推進方策 |
超強酸を連鎖的に発生することが期待される化合物を設計し、適度な収率で合成することができた。さらに、その化合物の溶液中での分解挙動を確認したところ、酸の作用で自己触媒的に分解し、超強酸を増殖することが示唆された。 次に、この化合物が樹脂中でも酸増殖反応を引き起こすことができるかどうか検証する。その際、どのような樹脂中であれば効率よく酸増殖反応が進行するか検討する。アプリケーションで用いることが予測されるエポキシ樹脂中で効率よく酸増殖反応が進行すれば、カチオンUV硬化への応用へ展開するが、効率よく進行しなかった場合は、その原因をつきとめ、欠点を改善した新たな酸増殖剤を設計合成する。 溶液中および高分子中での酸増殖反応が確認されれば、カチオンUV硬化材料に組み込み、硬化促進が認められるかどうか検証する。酸増殖剤による硬化促進効果が認められれば、光が浸透しない影部分のカチオンUV硬化についても検討を行う。
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