研究課題/領域番号 |
19K05623
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
浦田 千尋 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (40612180)
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研究分担者 |
穂積 篤 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究グループ長 (40357950)
佐藤 知哉 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (40783874)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オルガノゲル / ポリジメチルシロキサン / 離漿 / アクチェータ / 難付着性材料 / 架橋密度 / 化学ゲル |
研究実績の概要 |
本研究では,潤滑性に富むオルガノゲルを基本ユニットとし,異種のオルガノゲルユニットを相互接触させ,液体成分のゲル間移動とそれに伴う膨潤/収縮をプログラムすることで,能動的機能(表面の変形による付着物の除去)および受動的機能(表面潤滑性を利用した汚れ付着防止)を兼ね揃えた,革新的な難付着表面の創製を目指している。 本研究を実施するにあたり,以下3つの研究項目を設定した。(I)異なるオルガノゲルユニット間における液体成分の可逆的な移動、(II)オルガノゲル配列体の作製,(III)オルガノゲル配列体の難付着性効果の実証である。 本年度は、(I)を解明するため、ゲル架橋状態の制御を焦点とした。本研究対象であるオルガノゲルは、骨格成分と潤滑油成分から構成されており、骨格成分と潤滑油成分の均一混合状態において骨格成分が架橋することでゲルが形成する。潤滑油成分としては、分子量増加に伴う粘度増加が緩やかな、直鎖ポリジメチルシロキサンを使用した。骨格成分と潤滑油成分の体積比を一定とした上で、使用する直鎖ポリジメチルシロキサンの分子量のみをかえた場合、平均架橋密度は分子量に依存せず一定であったが、ゲルの架橋密度分布は分子量に依存することが明らかとなった。例えば、分子量の小さな直鎖ポリジメチルシロキサンを使用すると、架橋点はゲル内部に均一に分布した。一方で、一定分子量以上の分子量の大きな直鎖ポリジメチルシロキサンを使用した場合は、架橋点に偏りが生じ、架橋点の粗密が生じた。さらに、密度分布が生じた状態において、架橋密度が高い部位の架橋密度は、潤滑油を用いずに骨格成分のみを架橋して生成した無溶媒状態のゲルと同じ値となり、密な部位には原料の直鎖ポリジメチルシロキサンがほとんど存在しないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載の通り、本研究では、接触したゲル間における液体移動現象を理解し、これを制御することで、表面変形と離漿状態を自在に制御可能な難付着性材料を実現することを目的としている。令和元年度では、(I)異なるゲルユニット間における液体成分の可逆的な移動について調査することとしており、また本個別課題は令和3年度中期まで実施することとしている。特に、架橋密度の把握は古典的には膨潤度を利用して評価することができるが、今回は個体NMRの緩和測定を利用することで、膨潤度測定では知ることができない架橋密度分布をも効率的に調査することができた。以上の利用により、本研究課題は、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2度は、上記知見を踏まえ、架橋分布状態の異なるゲルを数種類作製し、これらを物理的に接触させ、潤滑油の移動挙動を調査する。具体的には、(1)潤滑油を含んだ状態”ゲル”同士を接着させ潤滑油の移動方向を調査する。この際に、潤滑油の移動方向と架橋点分布の状態の相関を調査する。例えばゲルAとゲルBを接触させた場合に、ゲルAが膨潤すれば、ゲルAの方がより油と親和性を示すと考えられる。異なるゲルを化学的に接着させる方法としては、プラズマボンディングや接着剤の利用を試みる。また、潤滑油を含んだ”ゲル”状態の場合には、化学的な接着が困難なことが予想される。このため、油を除去した後に化学結合(プラズマボンディング)を実施し、接合ゲルの膨潤を実施する。次に、(2)温度応答性ゲルに付与する潤滑油(ポリメチルフェニルシロキサン)を油成分として接合ゲルを膨潤させ、温度応答性と油の移動状態を調査し、単独状態のゲルと表面状態を比較する。この研究において、分担者である穂積博士には各種状態におけるゲル表面の機能調査、例えばより膨潤しやすいゲルと膨潤しにくいゲル間での表面の濡れ性の相違点を調べる。また、佐藤博士には、ゲル表面の変化状態を顕微鏡により観察し、変化の定性・定量評価を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題計画時は、膨潤度測定という古典的な方法によりゲルの架橋密度を評価することを予定していたが、個体NMRの緩和測定が有効であることがわかり、本評価手法を利用することで大幅に実験回数、試薬の使用量が減ることがわかったため、次年度使用額が生じた。次年度は、より研究を加速するために、ゲル同士を接合させるための各種試薬の購入を計画している。
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