研究課題/領域番号 |
19K05626
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
葛原 大軌 岩手大学, 理工学部, 准教授 (00583717)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ポルフィリン / 環状構造 / 湾曲構造 / ホスト-ゲスト相互作用 |
研究実績の概要 |
アセン、ポルフィリンに代表されるπ共役系化合物は、π-πスタッキングなどの強固な分子間相互作用を示すため、有機薄膜トランジスタ(OTFT)や有機太陽電池(OSC)などへの応用が期待され、活発に研究が行われてきた。一方、有機合成技術の発展に伴い、合成が困難であったπ曲面を有する化合物が、近年盛んに報告されている。フラーレン(C60)やカーボンナノチューブに代表される、π曲面を持つ分子はπ曲面の内側と外側で異なる電子物性を示すなど、有機エレクトロニクスや生化学分野など幅広い分野で研究が展開されている。近年ではシクロパラフェニレン(CPP)やカーボンナノベルトなどの新しい環状のπ曲面分子が相次いで報告され、電子物性の分子サイズ依存性やC60との超分子形成などπ曲面分子特有の性質が報告されている。しかし、依然として曲面や環状構造を持つ分子の合成法は限られており、新しい合成法の確立が求められている。ポルフィリンはクロロフィルやヘムなどの生体分子の基本骨格であり、機能性色素として活発に研究が展開されてきた。しかし、ポルフィリンは平面性が高く環状構造の合成は困難であった。一方、申請者は、1,2-ジピロリルベンゼン(DBP)とベンズアルデヒド誘導体からポルフィリン(2.1.2.1)の合成に成功し、この化合物が2つのπ屈曲面をもつダブルV字型構造を持つことを報告した。そして、このダブルV字型構造をビルディングブロックとしたポルフィリン(2.1.2.1)骨格を有する環状化合物の合成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、環状ポルフィリン(2.1.2.1)多量体の合成法の確立を試みた。通常、平面性の高いπ共役分子を用いて環状構造を合成するためには、屈曲面を作り出すための前駆体や連結部位の構造を考慮することが必須である。またテンプレート合成法も有効であるが、テンプレート分子を別途合成する必要があり、長い合成ステップが必要である。しかし、ポルフィリン(2.1.2.1)はダブルV字型の湾曲構造を持ち、それ自体が環状構造を合成するためのビルディングブロックとして利用可能であると考えられる。 そこで、1,2,4,5-テトラピロリルベンゼン(TPB)とベンズアルデヒド誘導体を酸触媒下、環化させることでポルフィリン(2.1.2.1)の環状三量体であるポルフィリンナノベルト(PNB)の合成に成功した。さらに、ジエチニルポルフィリン(2.1.2.1)を銅触媒によって環化させることで環状ポルフィリン(2.1.2.1)多量体(CPO)の合成にも成功した。 これらの環状ポルフィリンはポルフィリン(2.1.2.1)の2つある屈曲面のうち、それぞれ異なる屈曲面を活用した環状化合物であり、ポルフィリン(2.1.2.1)が環状構造を合成する上で極めて有用なユニットであることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
環状ポルフィリン(2.1.2.1)の更なる誘導体化および機能開拓を目指して以下の研究を遂行する [1] 「環状ポルフィリン(2.1.2.1)多量体の合成法の確立」 本研究で開発した環状ポルフィリンの合成では、様々な架橋部位を組み込むことが可能である。環状化合物において、環サイズを自在にコントロールできる合成法を確立することは重要である。そこで、ナフタレンやピレンなどの多環式芳香族部位を組み込んが環状ポルフィリンの合成を目指す。 [2] 「配位結合を用いた3Dカプセル型自己集合体の合成」 ピリジル基と金属イオンを組み合わせて、各ユニットを自己集合させることで、分子カプセルのような三次元構造体の合成が可能である。そこで、ピリジル基を有するポルフィリン(2.1.2.1)を合成し、パラジウムなどの金属イオンと組み合わせて自己集合させることで三次元構造をもつ分子カプセルの合成を試みる
[3] 「ホスト-ゲスト相互作用による超分子構造の合成」 多くのホスト分子は1つの分子認識サイトを持つ。一方、ポルフィリン(2.1.2.1)は、ダブルV字型構造のため、分子の両サイドでゲスト分子を認識可能である。そのため、複数のゲスト分子を組み合わせた超分子構造の合成が可能であるのか検討する。
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