研究課題/領域番号 |
19K05629
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
志津 功將 京都大学, 化学研究所, 助教 (10621138)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 一重項分裂 / 振電相互作用 / 内部転換 / 多電子励起配置 / Fermiの黄金律 / テトラセン |
研究実績の概要 |
前年度は、有機材料における分子内SF(Singlet Fission)速度を定量的に予測できる理論手法を確立した。本年度は、(1)この理論手法を分子凝集状態における分子間SFを取り扱えるように拡張した。さらに、(2)高い三重項エネルギーを持ち、有機EL素子への応用に有用なSF材料の分子設計を実施した。 (1) テトラセン単結晶中では、分子間SF速度は0.1 ps-1に達し、ほぼ100%の効率でSFが起こることが知られている。この分子間SFの起源を解明するため、QM/MM法を用いてテトラセン単結晶を模した分子凝集状態を計算し、分子間SF速度を算出した。その結果、SF速度の計算値は0.165 ps-1であり、実験値と定量的に一致することを示せた。さらに、振電相互作用を調べることで、回転運動と並進運動が結合した振動モード(波数62 cm-1)によってSFが促進されることを明らかにした。 (2) 有機EL素子の三重項増感剤として用いるSF材料には、高い三重項エネルギーと非晶における高いSF効率が要求される。これら2つの条件を満たす分子として、テトラセンが直接、結合した5,5'-bitetracene (55BT)を理論設計した。55BTにおいては、分子内SFの速度(10 ps-1)が、競合する失活過程の速度と比べて100倍以上速いことから、効率よくSFが起こることが期待される。また、55BTの三重項励起子は部分骨格であるテトラセンに局在化する。そのため、55BTの三重項エネルギー(1.26 eV)は、テトラセンの三重項エネルギー(1.29 eV)に近い値になる。このように、55BTは効率的なSFを起こし、かつ高い三重項エネルギーを持つことから、有機EL素子の三重項増感剤として有用であると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、設定していた研究目標は、分子内SF速度の定性的な理論予測と分子設計であったが、本年度の研究によって、分子凝集状態における分子間SF速度をも定量的に予測できるまでに進展した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究によって、分子内ならびに分子間SFの速度を定量的に予測し、分子設計に展開できる段階にまで進展させることができた。最近の実験研究によって、三重項励起子が結合して一重項励起子に戻る再結合過程を抑制することが、SFの高効率化にとって重要であることがわかってきている。再結合過程の速度を定量的に予測できる方法論を確立し、本年度までに開発した手法に組み込むことで、最新の実験研究を説明できる理論手法へと発展させ、分子設計と材料探索の確度を向上させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行に伴う国内および国外での学会発表の取りやめのため、次年度使用額が生じた。未使用額は、次年度の論文投稿費用ならびに国内および国外での学会発表の旅費として使用する予定である。
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